インドでは街中を牛が闊歩する。神の使いゆえ、クラクションを鳴らしてはいけない。一方デリーのような大都会で猿が走り回り、生活圏でトラの恐怖と隣り合わせのインドは野生の宝庫である。
▼ヨーロッパには野生の猿がいない。生息の北限を超えているからである。アルプス以外、大きな山塊がないから熊もいない。チェコで古城の一角にヒグマが飼われているのを見たが、身近な野生が乏しいせいか、ヨーロッパでは動物園文化が発達した。
▼北限の猿が温泉文化を楽しむ日本は豊かな野生を包み込む。近年、野生動物が街中に出没するようになったのは、放置された森林でエサが乏しくなったのと、農村の過疎化で里山が消滅したことによる。人と野生の生息境界が入り組んできたから、イノシシや鹿による農業被害、クマとの遭遇さえ頻繁になった。
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