日本商工会議所はこのほど、「東日本大震災 復興要望~これまでの10年間の総括と今後10年の復興の強力な推進を~」を取りまとめ、政府など関係各方面に提出した。同要望書は、日商が東日本大震災沿岸部被災地区商工会議所連絡会との懇談や、役職員による被災地訪問などにより、各地域の事業者などからヒアリングした生の声および実情などを整理して取りまとめたもの。特集では、本要望書の全文を掲載し紹介する。
1.被災地の復興・創生に向けた総合的な支援施策の実現を求める
(1)インフラ整備の計画完遂と地域強靭(じん)化に向けた拡充を図られたい
暮らしや産業経済活動の基盤であるインフラの整備は着実に進められてきたところであり、これを計画どおり完遂されたい。併せて、この10年の間に生じた社会環境などの変化を踏まえ、各地域の強靭化・経済活性化にも資するさらなるインフラ整備を強力に図られたい
〔具体的な要望事項は次のとおり〕
①高速幹線道路をはじめとする自動車道および付属施設の早期整備を
・三陸沿岸道路の早期全線開通、休憩エリアなど付属施設の整備・機能強化
・石巻新庄道路、みやぎ県北高速幹線道路、仙台東道路の着実な整備
・会津縦貫南道路の早期開通
・常磐自動車道および磐越自動車道の早期4車線化
・東北自動車道と共用されているために有料区間となっている東北中央自動車道の桑折JCTから福島JCT間の無料化
・岩手県沿岸と東北自動車道を結ぶ高規格道路の整備実現
・沿岸と内陸を結ぶ国道107号、281号、343号、397号の改良整備
・国道4号仙台バイパスの拡幅および福島県内4車線化
・国道6号勿来バイパスの早期開通
②港湾の機能強化、防波堤の早期整備を
・釜石港におけるコンテナ取扱量増加などに対応するための公共埠頭(ふとう)用地の追加造成および岸壁新設
・宮古港・塩釜港・相馬港・大船渡港・小名浜港の機能強化および利活用促進
・久慈港湾口防波堤の着実な整備と仙台塩釜港石巻港区の南防波堤の早期整備
・石巻市の北上川河口における堤防・防潮堤の早期完成、雨水処理施設の早期整備
③鉄道や代替バスシステムの早期整備を
・大船渡線・気仙沼線におけるBRT(バス高速輸送システム)などの早期整備・拡充
・JR只見線(会津川口―只見間)の早期復旧と路線継続
④空港活用のための航空路線の早期再開を
・東北の各空港における既存の国内・国際路線の早期再開と維持
(2)先端産業の集積と観光振興により東北の活力強化を図られたい
国際的にも優れた先端技術の開発・実証・活用に取り組む拠点を東北各地に設け、被災地域のイメージから完全に脱却する施策を拡充されたい。
併せて、コロナ後を見据えた人的交流の拡大に向け観光振興支援策を強化していただきたい。
〔具体的な要望事項は次のとおり〕
①東北を新たな先端技術研究開発の一大拠点に
・廃炉研究やロボット産業などを重点分野とする「福島イノベーション・コースト構想」の整備と福島浜通りの産業再生・雇用促進
・いわき市における「バッテリーバレー構想」の推進と水素・蓄電池など次世代エネルギー活用の取り組み推進支援
・国際リニアコライダー(ILC)の誘致の実現とそれに向けたILC準備研究所の高エネルギー加速器研究機構(つくば市)内への設立促進
・洋上風力発電の実効性を上げるための送電網の増強・拡大(久慈市)
・2023年度の運用開始が予定されている「次世代放射光施設」(仙台市)の整備促進と地元中小企業による利活用の推進
・むつ小川原開発地区における国際的な核融合研究開発拠点づくりの推進
・秋田・ロシア航路の開設、貨物輸送の高速・効率化を図るインフラ整備など環日本海シー&レール構想の実現
・山形大学が取り組む重粒子線がん治療施設を核とした、医療関連企業および研究機関などの育成・誘致への支援
②人的交流・移動の再開・回復期を見据えた観光振興支援の拡充・強化を
・4月から半年間実施される「東北デスティネーションキャンペーン」を強力な梃子とする広域(東北六県)での来訪増加・消費拡大に向けた支援
・地域が取り組む観光コンテンツ開発や情報発信、マーケット調査などへの支援およびそれらを担う観光人材育成に対する支援
・コロナ収束後を見越したインバウンドやMICEの受入体制整備支援
・GoToトラベル事業など観光需要喚起策の、被災地や中小事業者などへ配慮した制度改善
・福島県観光関連復興支援事業の継続および予算拡充
・震災伝承施設などを活用した震災復興ツーリズムの推進支援
・海水浴を観光資源とする日立市の海岸の砂浜復元などに対する総合的環境整備の推進
・「復興五輪」としての東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催実現
(3)多重苦に直面している被災地事業者への支援を拡充・強化されたい
大震災からの事業再建・販路回復が道半ばの中小企業は、2019年の台風19号による風水害、20年初頭からのコロナ禍など度重なる災害に見舞われ、さらに、近年の漁業不振や構造的な人手不足が加わり、極めて厳しい経営を強いられている。廃業・倒産を防ぎ、中小企業の自立再建・事業継続が進むよう、引き続き資金繰りや販路拡大などに対する伴走型の支援を強力に進められたい。
〔具体的な要望事項は次のとおり〕
①中小企業の資金繰り円滑化と二重債務の解消支援および税制優遇を
・返済余力の乏しい事業者への各種特別貸付の延長、借入枠の拡大、リスケジュール支援、劣後ローンの利用促進
・産業復興機構など公的機関によるリファイナンス時期の延長、債務免除益に対する課税減免および返済開始期に合わせた融資・補助制度の創設ならびに経営支援の継続
・東日本大震災復興特別区域法に基づく「ものづくり産業特区」や「まちなか再生特区」などの税制特例措置の延長
・コロナ禍などによる社会経済不安が解消されるまでの「雇用調整助成金」の延長
・感染予防ガイドラインに沿った店舗改装費用への補助制度
②事業者の自立に向けた補助金の拡充、活用要件・施設処分などの弾力的運用を
・「福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金」の拡充ならびに補助期間の延長
・「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」ならびに「ふくしま産業復興企業立地補助金」の継続・拡充
・中小企業等グループ施設等復旧整備補助金(以下、「グループ補助金」)に関する既存グループへの新規加入要件緩和、取得施設・設備の目的外使用や処分、賃貸を可能とする制限緩和
・グループ補助金と併用された高度化スキーム貸付制度の返済時期の延長
・台風19号などの風水害被害に関するグループ補助金による支援
③東北沿岸地域の基幹産業である水産業の国際競争力強化に対する支援拡充を
・国内の加工原魚が調達できない際の輸入魚仕入れに係る借入枠拡充および利子補給創設
・石巻港の外国漁船入港特区への指定
・陸上・海上養殖施設整備をはじめとする「育てる漁業」への支援
・原魚転換に伴う加工設備の改修、新規導入などへの助成
・水産事業者に対するHACCPやグローバルGAPの制度周知・取得支援
・再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)における賦課金の負担軽減に対する支援
④販路回復・拡大に対する支援の継続・拡充を
・販路の回復・開拓に資する「伊達な商談会」をはじめとする各地が取り組む商談会事業への継続支援
・リアルの商談会を補完する、東日本大震災被災地限定のオンライン商談など販路拡大につながるポータルサイトの構築支援
・復興庁の「ハンズオン支援事業」や「結の場」、福島相双復興推進機構の伴走型支援など、販路回復や新規事業創出に係る経営支援策の拡充
・自治体の公共事業・物品調達における情報周知の徹底や入札予定価格に応じた地元発注の強化
・相双地域の事業再建
・自立に向けた商圏の確保に資する住民の帰還促進
⑤人材の確保・活用に向けた雇用・人材マッチングおよびIoT導入に対する支援強化を
・復興まちづくりの推進に資する人材の確保に対する助成制度や支援策の拡充
・事業復興型雇用創出事業について、被災3県以外からの求職者の雇入れの助成対象化
・若者の地元定着促進を図るためのマッチング、インターンなどの地元就職支援
・UIJターンを推進するための情報発信強化および移住・就職支援助成金の拡充
・国内就職を希望する留学生への就労機会選択を可能とする制度構築
・改正入管法に伴う特定技能外国人受入れにおける大都市圏への集中回避ならびに中小企業による受入れ諸手続きに対する支援強化
・外国人技能実習制度における対象職種および作業の拡大ならびに申請手続きの簡素化
・人手不足の解消や生産性向上のためのRPA(定型業務の自動化)やAI、IoTの導入、キャッシュレス化への取り組みに対する支援強化
2.原子力発電所事故の終息に向け国の不断の努力を求める
(1)風評被害対策を効果検証しつつ、継続的に改善を図られたい
風評対策の大前提となるのは、科学的な安全性の確保とその正確な情報の共有であり、適切な情報発信が何より求められる。同時に、人々の心に「安心」を根付かせる施策を強力に推進すべきである。
〔具体的な要望事項は次のとおり〕
①人々の安心につながる安全性に関する国民理解深化の推進徹底を
・放射線量や食品などの安全性に関するリスクコミュニケーションの推進と正確な情報発信の強化
・被災地域の観光資源
・物産やイベントなどの魅力情報発信支援
・原子力被災地における国レベルの観光イベントの開催
②海外の輸入規制撤廃に向けた取り組みの一層の強化を
③科学的なデータに基づかない各国・地域による輸入規制についての、早期撤廃に向けた働き掛けの強化
(2)廃炉の加速化と納得いく損害賠償を行われたい
原発事故の終息は廃炉の完了を待たねばならないが、地域住民や事業者に対し、それまでの間における経済再生の見通しを示すとともに、納得感のある賠償対応を図ることが不可欠である。
〔具体的な要望事項は次のとおり〕
①廃炉の加速化とともに、廃炉完了までの地域経済の道筋の明確化を
・燃料デブリ取り出しについて、21年度中とされたスケジュール見直し後の着実な実施計画遂行
・廃炉完了に至るまでの、中長期の工程計画の策定とともに、地域の暮らしや産業経済の再生・復興に関するロードマップの明示
②損害賠償に係る判断基準の公表・支払いおよび10年の請求権時効不適用を
・個々の賠償対応に相違が生じないよう、賠償金支払いの判断根拠の公表・具体的対応についての国から東京電力に対する強力な指導
・原発事故損害賠償において請求権が消滅する時効(10年)の不適用
・原発事故に起因する営業損害賠償に係る実績および拒否判断基準の公表
(3)汚染土壌・処理水の処分に係る早期・万全の対策を尽くされたい
仮置きされている除染土やALPS(多核種除去設備)処理水については、国際的にも説得力のある処理対策と風評被害対策に万全を期すことが不可欠である。
〔具体的な要望事項は次のとおり〕
①除染土、ALPS処理水の適切な処置を
・除染土の仮置き場から中間貯蔵施設への21年度中の搬入の確実な完了
・福島県外とされる最終処分場の早期決定、および45年3月を期限とする中間貯蔵施設から最終処分場への搬出の着実な実施
・IAEA(国際原子力機関)との連携協力によるALPS処理水の安全性調査および慎重かつ適切な処分の実施
②ALPS処理水の処分に起因する風評被害の防止と損害賠償の対策徹定を
・処分に当たっての国内外への正確な情報発信の徹底
・海洋放出する場合における安全性確認のための、多地点にわたる海洋放射線モニタリングの実施
・風評被害を見越した営業損害に関する補償金支払いスキームの構築と事前の明示
以上
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