国土交通省は、建設現場の生産性を高める「i-Construction(ICT施工)」を推進。土木分野では建設機械を中心にクラウド・IoTの活用が進むが、ビルなど一般建築分野ではまだ遅れが目立つ。そこで隂山建設(福島県郡山市)は建設会社向けサービス・アプリの自社開発に踏み切り、生産性向上と顧客満足・従業員満足の向上を実現。2020年度中小企業クラウド実践大賞で日本商工会議所会頭賞を受賞した。
ビルなどの一般建築分野のIT化は遅れが目立っていた
一般建築分野でIT化(大きく捉えればDX対応)が遅れている要因は大きく二つあると、隂山建設の代表取締役・隂山正弘さんは指摘する。それは、①建築物は建物ごとに仕様が異なる一品一様であること、②一般建築では(一次下請け、二次下請けというように)取引先企業が多様な重層下請け構造であり、組織体系が複雑であることだ。しかし、だからこそ、「IoTで取引先企業がつながっていくことで、高い導入効果が得られると考えました」。
社内を見渡したとき、隂山さんは、「建設機械を中心にクラウド・IoTが活用され始めている」という点にも疑問を抱いた。
同社では2011年11月からICT施工の実験を始めているが、「これは外注先が中心の実験で、社内では目立った変化がなかった。そこでまず社内でできるIT化、IoT化を進めようと、自社内でドローンパイロットを育成するミッションを掲げました」。
いきなり建築関連のアプリを使いこなせとは言わず、ドローンという面白そうな機器の導入から始めたところがミソだ。17年8月、自社のドローンパイロット20人(現在は35人)がドローンを操縦し、建設現場の撮影を開始した。
顧客と社員間で情報共有できるアプリを自社開発
上空から見ることで、工事の現状・経過の把握はもちろん、作業員、稼働建機、工事現場に付帯する設備(休憩所、仮設トイレ、駐車場など)の把握、立ち入り禁止区域などの視認化が容易になった。その成果を受けて、「18年から全建設現場でドローン撮影を行う」と隂山さんは宣言した。顧客は初めて見る建物の空撮映像に驚きの声を上げ、同社には感謝の声が寄せられた。「このあたりから社員のIT、IoTに対する意識が大きく変わり始めました」
機を逃さず、隂山さんは、「何のためにIT、IoTを活用するのか」と自身にも社員にも問いかけた。一般的には生産性向上と考えられているが、「当社では『お客さまのため』と位置づけ、IT、IoTを活用して何ができるのかを考えました。その結果、決断したのが『Building MORE(ビルモア)』という建設情報可視化アプリの開発です」。
18年8月、別会社のビルディングサポートを設立し、「ビルモア」の開発と実証実験を開始、19年4月から自社内の本格運用と外部販売を始めた。ビルモアを導入すると、パソコン、タブレット、スマートフォンといったあらゆるデバイスで建設工事の進ちょくや出来形(工事が完了した部分)、図面・更新情報の共有、スケジュール、顧客と現場員とのトークなどが一元管理できるようになり、「建設現場の今」が誰でも簡単に把握が可能だ。
元請け会社としては、顧客に根拠を示しながら透明性の高い説明ができるようになり、顧客満足(CS)につながった。社員からは「お客さまに事前に工事情報を把握していただけるので打ち合わせ内容が密になった」「現場がよりきれいになり安全意識が向上した」「施工管理者のモチベーションや管理に対する意識が向上した」といった声が集まった。効果は数字にも表れ、1人当たり月間約50時間の残業時間削減、有給休暇消化率の向上、ひいては社員満足度(ES)の向上にも貢献している。
一方で、社員がやるべきことも実は増えた。例えば、撮影した現場写真をビルモアにアップするという作業が新たに加わった。「確かにアップするという作業は増えたのですが、お客さまから大変好評で、現場代理人だけでなく、作業を担当した若手社員にも直接『ありがとう』という声を掛けていただけるようになりました。このことは社員の大きな励みです」
ビルモアの成功を受けて、隂山さんは、新たなアプリの開発に乗り出した。
「複数の協力企業さまとも連携できる『ビルモア・プラス』を開発し、クラウドを活用して予算・受発注の管理なども含めた情報連携をしていく計画です」。どの業界であれ、DX対応は待ったなしの状況だ。しかし、隂山さんはDX対応を急ぐ経営者にこうアドバイスする。「DX対応は計画を立てて、ステップを踏んで、一歩ずつ実現していく方がいいでしょう」。いきなりハイレベルなアプリや機器を導入すると、経営者も社員もついて行くことができなくなるというわけだ。
会社データ
社名:隂山建設株式会社(かげやまけんせつ)
所在地:福島県郡山市石渕町1番9号
電話:024-944-1325
代表者:隂山正弘 代表取締役
従業員:42人
※月刊石垣2021年6月号に掲載された記事です。
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