CO2の削減や再生可能エネルギーの活用など林業に対する環境は変わりつつある。世界有数の森林国である日本にとって林業を活性化することは、新たな雇用や産業の創出など、地方創生と地域経済の好循環につながる。林業に関わる大企業と地域企業のそれぞれの取り組みに迫った。
木を軸とした事業の知見を生かし地域の森林経営を支援
木造建築物は製品ライフサイクル全体を通じて環境負荷の低減に貢献する。そこで住友林業は、非住宅建築物の木造化・木質化を推進する「木化事業」の拡大をSDGs達成に向けた活動の一環と位置付けている。同社の森林経営の姿勢を聞いた。
戦後植林された人工林は収穫の時期を迎えている
日本は国土の3分の2を森林が占める(森林面積は約2500万ha 出典:2020年度 森林・林業白書)世界でも有数の森林国だ。森林を自然の力で生まれた天然林と木材の生産目的で植林し育成した人工林に分けると、森林面積の割合は6対4となる。天然林はほとんどが広葉樹林。人工林のほとんどは通直に育ち建築資材に適するスギやヒノキ、カラマツやトドマツなどの針葉樹林だ。
森林全体の面積はこの50年間でほとんど変わっていないが、人工林の蓄積量(樹木の幹の体積)は5・9倍に増えている。
住友林業資源環境事業本部山林部長の寺澤健治さんは、「人工林の蓄積量が増えているのは、戦後に植えられた木が育ってきているからです」と説明する。
「終戦後の復興期には木材の需要が高まり、森林が伐採されました。その後に植林された森林は保育段階にあったため、政府は緊急対策として木材の輸入自由化に踏み切りました。ようやくここに来て戦後植えられた木が40年生、50年生(図1)となり、伐採して利用する時期を迎えています」
地球温暖化対策のためにも森林の保護は重要だが、人工林は計画的な伐採を含めた管理を行わないと荒廃し、CO2吸収機能、森林が水資源を蓄える水源涵養(かんよう)機能、土砂災害防止機能、生物多様性保全などが働かず、さまざまな環境問題を引き起こしかねない。
「そこで社有林では伐採した後必ず植林していますが、日本全体で見ると、切った後十分に植林されずに放置されている山もあります。その解決の一助とするため、当社では苗木を生産する施設を全国で6カ所(年間生産能力190万本)つくり、社有林以外の森林へ出荷しています」
森林を有効利用する林業が抱える課題は、需要減(戸建て住宅の着工戸数減少が最大要因)に加え、同じ1次産業の農業や漁業とも共通する従事者の減少と高齢化、機械化の遅れなどが挙げられる。また、経営規模も小さい(図2)。
そこで同社は、林業復活を目的としたさまざまな取り組みを行っていると、寺澤さんは言う。その一つが「MOCCA(もっか)」(同社が推進する木造化・木質化の事業ブランド)。「社有林を含めた収穫期を迎えた人工林を木材として市場に供給し、木造住宅にとどまらず、非住宅と呼ばれる学校、図書館、幼稚園・保育所、オフィスビルなど中大規模の木造建築などに使う事業です」
10年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(※)」が施行されて、木造化、木質化の拡大は国策として位置付けられた。同社でも東京都調布市の大学の音楽ホール、愛媛県松山市のホテル、千葉県香取市の幼保連携型認定こども園、神奈川県海老名市の物品販売店舗など、数多くの木化事業を手掛けた。
高層建築物の木造化も進めている。「まちを森に変える環境木化都市の実現」(寺澤さん)だ。その結果、建設時の二酸化炭素の排出低減、木材利用による炭素固定効果、木材需要の拡大が期待できる。都市部に林立するビルが木造化されることで「森」が生まれるわけだ。
※2021年、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正。10月1日施行により、対象が公共建築物から民間建築物を含む建築物一般に拡大された。
林業コンサルを通じて地域の事業収支を改善
同社が保有する主な社有林は、北海道(オホーツク海沿岸に位置する森林)、本州(和歌山県中央部の日高川源流に位置する森林など)、四国(同社発祥の地である愛媛県新居浜市別子山を中心に広がる森林)、九州(宮崎・熊本・鹿児島県の三県に所在する森林)の4カ所にあり、総面積約4・8万ha(日本国土の約800分の1)に及ぶ。
「林業は地場産業でもあるので、社有林のある地域の方々とは密接な関係を築きながら事業を進めています」と寺澤さん。
社有林の管理は自社で行うが、作業は地元に依頼することで、仕事も雇用も生まれ、林業従事者の所得向上につながるわけだ。一つの例を挙げると、同社が14年から生産性向上・経営改善のコンサルティングを行っている京都府京丹波町では、17年度から18年度にかけて、林野庁の「地域林政アドバイザー制度」を活用し、森林組合の作業工程の分析を行い、町有林における主伐(木材としての利用を目的とした伐採)事業のコスト・労働生産性・販売についてアドバイスを行い、森林所有者と事業体の事業収支改善に貢献した。
「社有林経営で培ったノウハウを地域に還元しています。例としては、地域の森林・林業政策の根幹となる『森林・林業マスタープラン(基本計画)』の作成と計画の実行体制の構築までを支援することで、地域の林業振興に貢献しています」(寺澤さん)
この「森林・林業マスタープラン」は延べ60市町村で実施している。その一つ、福岡県糸島市では16年度に森林約8600haを航空レーザー測量して基礎データを収集し、森林の成長力や利便性、環境保全機能などに着目してゾーニング(大別すると森林を環境保全と木材生産に分ける)し、それぞれに取り扱い方針を定め、具体的な伐採計画や産出木材を運び出す設備計画(「森林・林業マスタープラン」)を策定した。その計画に沿って、市は18年度より「林業成長産業化地域創出モデル事業」を開始。その結果、「伊都国のスギ」「ITOSHIMA・WOOD」「GAKUシリーズ」が生まれて需要が創出された。
独自のバリューチェーンを構築して環境保全に貢献
同社の取り組みをまとめると、図3にあるような独自のバリューチェーンになる。植林した木は下刈りや間伐を行いながら丁寧に育てられる。その間、光合成により木はCO2を吸収し、O2を供給する。収穫期に達した木は主伐し、建築物の資材や木製品などに生まれ変わる。間伐材は紙製品や枝、葉、樹皮、のこくず、住宅の解体材などと合わせて木質バイオマスとして、木質バイオマス発電の燃料となる。木質バイオマス発電では、木材の燃焼時にCO2が放出されるが、木の成長過程では大気中のCO2を吸収するので、CO2の増減に影響を与えない「カーボンニュートラル」と考えられるわけだ。
同社グループの木質バイオマス発電は、北海道苫小牧市、紋別市、青森県八戸市、神奈川県川崎市、福岡県苅田町の5カ所で事業を展開。23年11月には宮城県仙台市に6カ所目の発電所が運転を始める。
林業は過去の産業ではないし、自然と対立する産業でもない。その可能性に注目した同社の100年先を見据えた取り組みは、SDGs達成に「今なすべきこと」を明確に示している。
会社データ
社名:住友林業株式会社(すみともりんぎょう)
所在地:東京都千代田区大手町一丁目3番2号 経団連会館
電話:03-3214-2220
代表者:光吉敏郎 代表取締役 執行役員社長
従業員:20,562人(連結、2020年12月31日現在)
【東京商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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