被災地を取り巻く現状
【発災から11年を迎え「創造的復興」に本格的に取り組む段階にある】
・東北の域内GDPの回復、「復興道路・復興支援道路」の全線開通
・「福島イノベーション・コースト構想」をはじめとした国家的プロジェクトの進展
【被災地の事業者は依然厳しい経営環境に置かれている】
・震災後の人口減少、度重なる自然災害、コロナ禍による消費低迷や人流抑制
・不漁・魚種の変化による原材料不足、根強く残る風評、日本産食品などへの輸入規制
・経営再建・事業継続に向けた支援を行うとともに、新事業展開や販路開拓など、ビジネスモデルの転換を後押しする必要がある
【ALPS処理水(多核種除去設備など処理水)の海洋放出への対応が急務である】
・新たな風評発生が復興の妨げとなることを強く懸念する声が寄せられている
・国は、地域や事業者の声に丁寧に耳を傾け、責任を持って風評対策の徹底、迅速かつ適切な賠償の実現に取り組むべきである
【廃炉や除去土壌の処分など長期的課題が残されている】
・原発事故の完全な収束に向け、国が前面に立って、着実に取り組みを進めるべきである
国においては、第2期復興・創生期間における「被災地の自立につながり、地方創生のモデルとなるような復興を実現していく」との理念の下、以下の要望項目の実現に向けて尽力されたい。
Ⅰ 被災地の創造的復興に向けた取り組みの推進
1.持続的な経営基盤の構築に向けた取り組み支援
・水産業、観光、商業などは、震災からの回復の遅れに加え、コロナ禍の影響を強く受け危機的な経営状況に置かれている
・創造的復興の実現には、コロナ禍で顕在化した経営上の課題解決に向け、取り組むことが不可欠である
【要望事項】
・当面の事業継続支援および新事業展開・販路開拓など、事業者の前向きな挑戦の後押し
・円滑な事業継承による技術やノウハウの継承、雇用の維持・拡大支援など
2.ALPS処理水の処分による風評への対応
・ALPS処理水の処分問題は、創造的復興の大きな足かせとなる
・海洋放出による新たな風評の発生が、東北の地域ブランド全体を毀損(きそん)し、復興の妨げとなることを強く懸念する声が寄せられている
【要望事項】
・風評による影響を最大限抑制するよう、徹底した対策を講じること
・迅速かつ適切な賠償が行われるよう、国が前面に立って対処することなど
3.先端技術の研究開発拠点の整備・利活用促進
・復興需要の縮小後も持続的な地域経済を実現するためには、新産業の創出・集積などの加速化が必要
・併せて、地元企業の参画や産学官連携の促進が不可欠である
【要望事項】
・「福島イノベーション・コースト構想」の推進、福島国際研究教育機構の早期整備など
・再生可能エネルギーの活用推進、国際リニアコライダー(ILC)の誘致など
Ⅱ 原子力災害の収束に向けた取り組みの推進
1.着実な廃炉の実現と除去土壌の早期搬出
・風評を払拭(ふっしょく)し、不安のない経済活動を推進する上で、廃炉の実現は必須
・廃炉・除去土壌処分は、長期的対応が必要であり、国が前面に立って着実に進めるべきである
【要望事項】
・全世界の英知と技術を結集した廃炉の実現
・中間貯蔵施設の整備促進および除去土壌の仮置場などからの早期搬出など
2.被害実態に合った原子力損害賠償の着実な履行
・東京電力による、将来分一括損害賠償後の請求に対する支払いは極めて少なく、確認にも時間を要している状況にある
・国においては、被害の実態に見合った賠償が着実になされるよう、東京電力へ強力に指導されたい
【要望事項】
・賠償について、運用基準や事例を公表・周知するなど、被害事業者に分かりやすく説明させること
・手続きの簡素化に取り組み、被害事業者の負担を軽減させることなど
3.企業立地の促進による産業集積・雇用創出
・復興需要の縮小や深刻な人手不足など、被災地の企業を取り巻く状況は依然厳しい
・事業再建、販路開拓、人材確保の支援など、事業者の自立に向けた取り組みの拡充を図ることが必要不可欠である
【要望事項】
・「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」などの継続・拡充
・「福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金」などの継続・拡充など
Ⅲ 産業・生業の再生
1.農林水産業の販路回復・拡大支援
・農林水産業の経営基盤強化に向け、競争力強化のための経営支援が重要となる
・特に水産業は、販路喪失や漁獲量減少・魚種変化、消費低迷など、厳しい状況に置かれている
2.風評払拭および諸外国による日本産食品などへの輸入規制早期撤廃
・農林水産業などを中心に風評被害が継続している
・主要な輸出先である香港・中国・韓国をはじめ14の国・地域で日本産食品などへの輸入規制が続いている
【要望事項】
・リスクコミュニケーションの推進、科学的根拠に基づく情報発信強化、諸外国への規制解除の働き掛け強化など
3.観光振興による交流人口拡大
・観光の回復期を見すえ、東北の観光の魅力のポテンシャルを最大限に発揮する取り組みが必要である
【要望事項】
・地域の観光マネジメント体制の強化・広域連携への支援、観光需要の地方・地域への波及、デジタル技術活用支援など
4.産業の原動力である人材確保への支援
・人手不足や雇用のミスマッチ解消に資する取り組み、デジタル活用やIT機器導入による業務効率化への支援が必要である
【要望事項】
・インターンシップ事業など地元就職推進、東北へのUIJターンの推進、外国人材のマッチング機会の提供など
5.自立に向けた資金繰り円滑化と補助金の継続および運用の弾力化
・事業者は、事業環境の変化により事業計画や返済計画の見直しを余儀なくされるなど厳しい経営環境に置かれている
・補助金を活用し導入した施設などの処分制限が、事業転換を図ろうとする事業者の前向きな取り組みなどの妨げとなっている
【要望事項】
・返済期間の延長など、資金繰りの円滑化に対する支援
・補助金の継続および弾力的な運用など
Ⅳ インフラの整備・利活用促進による創造的復興の実現
・創造的復興の実現に向け、鉄道・空港・港湾・漁港などの各種インフラが有機的につながる「広域経済交流圏」を構築し、東北経済の活性化を進めることが重要
・昨今の激甚化・頻発化する自然災害へ備える国土強靭(きょうじん)化への対応も求められる
1.道路網の整備促進
【要望事項】
・沿岸部の物流を担う三陸沿岸道路のトイレ、休憩エリアなどの施設整備
・高規格幹線道路(高速自動車国道、一般自動車専用道路など)、地域高規格道路の整備促進
・一般国道事業の整備促進
2.鉄道網の整備促進
【要望事項】
・国が基本計画に掲げた東北エリアにつながる新幹線路線の整備促進
・震災後の自然災害などにより不通となっている鉄道路線の早期復旧など
3.空港の整備・利用促進ならびに地方路線の維持拡充
【要望事項】
・東北の各空港の既存路線維持と航空需要喚起に向けた支援、運休路線の一日も早い再開に向けた取り組みの推進
・ビジネス目的の渡航者向けPCRセンターの東北地方への設置やビジネストラック協議対象国の拡大など
4.港湾などの整備促進
【要望事項】
・各港湾における災害など緊急時の物流機能確保に向けた連携体制の強化
・機能強化に向けた防波堤、耐震強化岸壁などの整備推進など
東日本大震災からの「復興・創生」に関する要望 (2022年2月17日、日本商工会議所)
要望項目一覧
Ⅰ.被災地の創造的復興に向けた取り組みの推進
1.持続的な経営基盤の構築に向けた取り組み支援
2.多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)処分による風評への対応
3.先端技術の研究開発拠点の整備・利活用促進
Ⅱ.原子力災害の収束に向けた取り組みの推進
1.着実な廃炉の実現と除去土壌の早期搬出
2.被害実態に合った原子力損害賠償の着実な履行
3.企業立地の促進による産業集積・雇用創出
Ⅲ.産業・生業の再生
1.農林水産業の販路回復・拡大支援
2.風評払拭および諸外国による日本産食品などへの輸入規制早期撤廃
3.観光振興による交流人口拡大
4.産業の原動力である人材確保への支援
5.自立に向けた資金繰り円滑化と補助金の継続および運用の弾力化
Ⅳ.インフラの整備・利活用促進による創造的復興の実現
1.道路網の整備促進
2.鉄道網の整備促進
3.空港の整備・利用促進ならびに地方路線の維持拡充
4.港湾などの整備促進
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