カーボンニュートラルとは、地球上の植物が吸収できる量しか炭素を出さない仕組みである。気候危機を前に、昨年11月にCOP26が産業革命前比で1・5度までの上昇に抑える合意ができた。それに先立つ10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言した。
▼脱炭素の切り札核融合は技術とコストで実現は遠いが、このままでは2100年には平均気温が3度上昇する。脱炭素は全産業が等しく負う課題だ。
▼転機を迎えているのが自動車産業である。政府は2035年までに新車はすべて電動車とする方針だ。決断の速さは評価しうるが、産業戦略を巡る各国の主導権争いを冷静に見極める必要がある。
▼電気を主な動力とする自動車EVは、電気だけで走るEVのほかPHV(プラグ方式)やFCV(燃料電池車)など4種類。エンジンなどの技術が要らないからどの国でも生産できる。経済ジャーナリスト安井孝之氏の『2035年ガソリン車消滅』(青春新書)によると、EVだけがエコカーではないと分かる。
▼「欧米や中国のメーカーはHV(ハイブリッド)技術で日本に出遅れたため、電動化の潮流が加速した今、一気にEVへとシフトし、主導権を握ろうとしている」(同書)と言う。そもそもエコカーには「時間軸と電源構成という2つの変数が存在する」から走行時の排出量だけが現実解ではない。
▼車体価格が抑えられ、充電が容易になればEVが主流になるのは確かだが、主に中国製とされる搭載電池の火災事故も今は少なくない。政府はやや性急に舵を切った。あまり選択肢を狭めず、自動車関連の雇用転換にしっかり取り組み、電池技術など日本ならではの産業戦略が求められよう。 (コラムニスト・宇津井輝史)
最新号を紙面で読める!