ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では情報の取り扱いも注目された。ウクライナはSNSを駆使して被害の大きさを訴え、ロシアは「西側の流す映像はフェイクだ」と批判を繰り返した。為政者は情報の重要性を熟知している。膨大な情報が発信される現代は、受け取る側に、情報の正確さを把握する力が求められる。
▼ジャーナリストには犯してはいけない行為がある。第一に虚報、つまりでっち上げだ。行方不明になった政治家の架空会見記、サンゴ礁を意図的に傷つけて写真を撮影した事件など記憶に残る虚報がある。事実確認を怠ったまま、情報を伝達するのも許されない。発表内容をうのみにして事実であるかのように報じたり、ネット上に出ているうわさを記事にしたりすることは論外だ。
▼残念ながらネットメディアの中には、アクセス数稼ぎを目的に、こうした原則を逸脱した情報配信を行うケースが散見される。「自分に都合が良い」情報を求めていると、根拠のない内容でも信じてしまう例は、よく指摘される。「もうけ話が転がっていないか」と期待する人が怪しげな投資詐欺に引っかかる構図と同じことだ。
▼報道機関が信頼できるメディアであり続けるには、情報の出所を明示する必要がある。情報源の秘匿も大事だが、広く発信するのならば、確認作業をした事実を明らかにすべきだ。逆に受け手側は、根拠のない情報に振り回されない冷静さが欠かせない。ビジネスマンが不確定な情報に基づき行動を起こせば、会社に重大な損失を与えかねない。経営者はデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れに沿って改革に取り組むだけでなく、正しい情報の見極め方を従業員に徹底したい。 (時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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