ウクライナ東部要衝のマリウポリや北東部のハリコフでのロシア軍の攻撃は凄惨を極めた。ウクライナ国民の戦意をくじくためにロシア軍は意図的に病院、学校、集合住宅などにミサイルを撃ち込んだ。死亡した赤ちゃんを抱えた母親の悲痛な叫びが耳にこだまする。
▼ウクライナ国民は、2014年のマイダン革命以来、自由と民主主義を希求して北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)への加盟を求めた。この動きは大ロシア帝国の復活を標榜するプーチン大統領にとって絶対に許されざるものだ。しかし、このような国家主権に対するあからさまな侵略は許容されるものではない。
▼プーチン氏はこの戦いが劣勢になれば核兵器も使用しかねない。米欧はロシアとの全面的な核戦争を回避したく兵員の投入は控え、対戦車ミサイルのジャベリンや対空ミサイルのスティンガーなどの提供にとどめた。また、ロシアを国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出すなど強力な経済制裁も課した。
▼米国の一部には、自国兵の犠牲を被ることなくプーチン氏の追い落としやロシアの国力をそぐ絶好の機会だと考えている勢力もある。しかし、プーチン氏に支援を約束した中国の習政権の動きやロシアの生物・化学兵器の使用など不穏な動きも気に掛かる。これ以上のウクライナ国民の犠牲を無くすために一刻も早く「プーチンの戦争」を終わらせるべきだ。
▼3月末、ロシアは首都キエフの攻略の失敗に直面して、トルコのイスタンブールで4回目の停戦交渉に入った。これからの領土交渉において、プーチン氏の顔を立てる案とゼレンスキー大統領の譲歩に対する腹のくくり方に停戦の落としどころが見いだせるだろうか。 (中山文麿・政治経済社会研究所代表)
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