逆境こそ新たなビジネスのチャンスでもある。小さな企業でも主業務(OEMや下請け業務)を怠らず、そこで培ってきた技術と人材、ネットワークを生かして新たな自社製品のブランド化にも果敢に挑む。いわば〝二刀流〟で大きな相乗効果を生み、新たな販路を開拓して業績を伸ばしている地域企業の取り組みを追う。
200年以上の歴史ある播州織の技を礎に自社ブランドで前例なき道を開く
播州織の一大産地、兵庫県西脇市に拠点を置く丸萬は、播州織の製造販売商社として120年の歴史を持つ。しかし播州織も織物業界全体にも勢いはない。過去の栄華に依存せず、もっと貪欲に他業界、企業を研究して未来につなげたい。その思いを胸に2015年、自社ブランド「POLS」(ポルス)を立ち上げた。
歴史と技術がある産業にベンチャーマインドを根付かせる
日本列島の経緯度の中心点〝日本のへそ〟にある兵庫県西脇市。江戸中期に京都の西陣から織物技術が伝わり、明治後期には〝播州織〟として全国に名を轟(とどろ)かせた。栄華のピークは過ぎたものの、今も120の機屋がひしめき、1000人の働き手がいる。200年以上の歴史ある、国内の染色木綿生地の生産70%のシェアを誇る地だ。風情あるまち並みが残る播州織の里で、1901年創業の丸萬は、戦前から日本の大手商社と連携して輸出に力を入れてきたという珍しい産元(さんもと)商社だ。産元とは生地の企画や設計を担うOEMメーカー的な存在で、海外から桁の違う量の受注で、地元で5本の指に入る有力企業へと成長していった。
だが、90年代のバブル前後に大きな転機を迎える。中国や東南アジアへの生産拠点の移行、円高で繊維業界が生地の輸出が振るわなくなり、織物産業は陰りをみせた。
「私が入社したのが2011年で、播州織も業界全体も元気がなく、『昔は良かった』と過去の話を聞かされるばかり。一方で自動車業界や、同じ業界でもユニクロなど成長している企業はありました。なぜ、歴史も技術力もある播州織は振るわないのか。そこで私なりに行き着いた一つの見解が、歴史のある産業にベンチャーマインドを根付かせることでした」
そう語るのは同社の自社ブランド「POLS」を立ち上げた丸山洵平さん。社長の息子であり、現在、POLS EC事業部の役員に近い役割を担っている。世の中の生地の95%がコピーであることを逆手に、同社が得意とするジャカード織の織り方を徹底的に追求し、新しい生地でテキスタイルの楽しみを発信するオリジナルブランドを立ち上げた。それがPOLSだ。
外部人材を起用して志が同じチームで事業を推進
ジャカード織とは、プリント生地とは異なり、色糸で柄を表現する織り方で、手の込んだ高級テキスタイルだ。テキスタイルコンテストで数多くの受賞歴のある同社だが、新規事業には技術力以上に問われるのがチャレンジ精神。丸山さんはブランド立ち上げに熱意ある人材を〝外〟から集めた。外部のテキスタイルデザイナーをはじめ、新規にスタッフを採用して社内ベンチャー的に新規事業を展開する。
「丸萬に入社する前に東京のベンチャー企業で約5年間働いていました。そこで経験したことが今に生きています。例えば業界や企業の研究や、ビジネスの勉強をすること、スタッフと1対1で面談するワンオンワンミーティングを定期的に行うなど、メンバーのモチベーションのケアに努め、フラットに発言できるチームづくりに注力しました」と丸山さん。「与えられた業務をこなす」だけの人材ではなく、走りながら考えて、新しいアイデアを出し合える。そんなフラットな関係性を築ける組織を目指していったのだ。
「主業務は社歴の長いベテランをそろえたテキスタイル事業部が担当し、新規事業とすみ分けて、独立採算制をとり、成果を明確にするように工夫しました」と丸山さん。
こうした社内ベンチャーが可能だったのも、同社の長い歴史と実績による社会的信用、保険業や不動産業など多事業化によるゆとりある財政基盤、従業員も現状維持では先細ることへの理解などがあったからと語り、「社長の息子という立場も大きいですね」と笑う。
うまくいったことを一度忘れて続けるのが肝
2015年の立ち上げ当初は、一般ユーザーに知ってもらうべく、ブランディングに予算をかけた。ロゴマークやパンフレット、ブランド第一弾アイテムのストールは、ストールの巻き方をネットに掲載して紹介した。赤字でも実行し、展示会や百貨店の催事に出展しては販路を広げた。その後は支出を抑え、PDCAサイクル(仮説・検証型プロセスの循環)を回して、ブランドの継続に努めている。
「持続するブランドにするべく、私自身が心掛けたのがサーバント・リーダーシップをとること。役割を決めたら具体的な行動プランはメンバーに任せ、私はメンバーをフォローし、支援にまわるリーダーシップです。また、悩みはチームでシェアして解決するシステムをつくっていきました」
さらに、現状レベルで成功したことは「忘れることが大事」と説く。
「成功したパターンを繰り返しては成長がありません。POLSはまだ全売り上げの5%程度。国内外の認知度を上げるためにもSNSを活用するなど、まだまだできることはあります」
POLSの成長とともに、播州織、業界全体のヒト、モノ、コトがゆるやかに変わりそうだ。
会社データ
社名:株式会社丸萬(まるまん)
所在地:兵庫県西脇市西脇405
電話:0795-22-5551
代表者:丸山恒生 代表取締役社長
従業員:26人
【西脇商工会議所】
※月刊石垣2022年5月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!