ロシアのプーチン大統領は大ロシア帝国の復興を夢見た独り善がりな歴史観と西側に対する敵愾(がい)心から兄弟国のウクライナに武力侵攻した。このような行動は世界の多くの人にとって理解不能であり、まして弟分のウクライナの人にとってなおさらであろう。
▼彼の信念はロシア語を話す人たちによってロシア帝国をつくり上げるルースキー・ミール(ロシアの世界)という思想に根差している。ウクライナの首都キーウを落とし、ゼレンスキー大統領を倒してロシアに忠実なかいらい政権をつくり、ウクライナの非軍事化と中立化を狙った。それが失敗したため、せめて帝政時代のノボロシア(新ロシアで東部と南部)からモルドバに至る回廊をロシア領に編入するべく方針を変えた。しかし、今やこの構想の実現も怪しくなってきている。
▼プーチン氏の侵略行為は第2次世界大戦後のパラダイムを根底から覆す時代錯誤の暴挙であって、決して許されるものではない。この国際法を無視した武力侵略を見てナポレオン戦争以来200年間にわたって中立を標榜してきたスウェーデンと軍事的非同盟主義のフィンランドはNATO加盟へ動いた。プーチン氏のウクライナのNATO加盟を阻止しようとした軍事侵攻が全くのやぶ蛇の結果を招いた。
▼ウクライナはこの6月末から西側から供与された攻撃的重火器によってロシアが2月24日以来占領してきた南部や東部の地域の奪還に動く。
▼この戦争はプーチン氏が始めたものであり、停戦させることができるのもプーチン氏しかいない。ただ、強いロシアを夢見た彼は諦めないと思われるため、古巣の連邦保安局(FSB)内部の離反などでもない限りこの戦争は長くなりそうだ。
(政治経済社会研究所代表・中山文麿)
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