人材なくしては、企業も地域の発展も望めない。とはいえ、ここ数年来のコロナ禍により業績も落ち込み、優秀な人材の確保が一層難しいという声も聞く。しかし、苦境だからこそ人材を雇用し育成することが、業績の向上だけではなく地域の未来も担うことにつながる。100年後の会社も地域も任せられる〝人財開発〟の育成に取り組む企業に迫った。
首都圏と地方をつなぐビジネスモデルで地域貢献、IT人材の育成と事業拡大を実現
鳥取駅前に本社を置くIT企業、アクシス。「地域貢献」を掲げ、人材育成に力を注ぐとともに、システム開発、ITスクールの運営、ITコンサルティング、インフラ設計など着実に事業を拡大してきた。今や首都圏の大手企業との取引が約9割を占め、地域の雇用や新たな可能性の創出につながっている。
東京のIT企業と闘うには教育からやり直すしかない
知識集約型産業の代表格であるIT企業の東京一極集中が長年続き、現在その集中度は50%を超えている。そのような状況の中、地域貢献を掲げ、鳥取県でスタートしたのがアクシスだ。
1993年の設立当初、同社は八頭(やず)町という中山間地域にあり、ソフトウエア開発をメインに扱っていた。そこから大きく変わり始めたのは、2013年に坂本哲さんが社長に就任してからだ。坂本さんはそれまで東京でネットワークインフラ工事の会社を経営していたが、父親である先代の後を受けて同社の事業を引き継いだ。それに伴い、鳥取市に家族とともに移住した。
「最初に社員の仕事ぶりを見たときは、正直言って『むちゃくちゃ能力が足りない』と感じました。当時、50人くらいの社員のほとんどが地元出身かUターン人材だったんですが、ITって何かも知らずに入ってきてしまった感じで。これで東京のIT企業と闘っていくには、教育からやり直すしかないと思いました」と、坂本さんは当時を振り返る。
ITスクール事業が社内研修のレベルアップにつながる
有能な人材を獲得するには会社の知名度を上げることが重要と考えた坂本さんは、本社を鳥取駅前に移転し、新人研修に力を入れ始めた。
同社の新人研修の特徴は、たっぷり1年かけて行う点だ。まずは7カ月間を座学に充て、インターネットの仕組みやプログラミングの基礎知識を学ぶ。その後フィリピンで1カ月間の語学研修(現在はコロナ禍の影響によりオンラインでの英会話研修)を実施し、英会話とともにグローバル感覚を養う。残りの4カ月間は現場に仮配属し、実践的にプログラムをつくり上げる過程を経験する。
「ある意味学校的な仕組みで、最終的にシステムエンジニアとしてデビューできる能力を身に付けます。入社当時は満足にパソコンを使えなかった社員でも、1年後には簡単なホテルの予約サイトをつくれるくらいにはなります。このように技術的なことは教えれば解決できるので、採用する人材には前向きに物事を考え、チャレンジする資質を重視しています」
それと並行して同社が取り組んだのがITスクール事業だ。IT人材を育てる土壌やノウハウの乏しい地域性から、当初は県の補助金を活用して大人向けの講座を開講。受講した124人の3割以上が入社に至っており、有能な即戦力人材を発掘・採用する仕組みとしても機能した。現在は小学校中・高学年を対象としたプログラミング講座を事業化し、未来を担う子どもたちがITについて楽しく学べる場所となっている。
「ITスクール事業は、収益を上げるというより、CSRとしての意味合いが強いです。自社の新人研修のレベルアップにつながったことが最大の収穫といえます。最近ではコミュニケーションや人との信頼関係の構築に役立つ『インプロ研修』を導入したほか、既存社員を対象としたキャリアアップ研修も昨年からスタートし、充実度を増しています」
こうした人材育成の取り組みにより高スキル・高意欲社員が次々に育ち、ITコンサルティングやインフラ設計など事業を拡大。さらに有能なIT技術者が集まるという好循環が生まれた。その結果、平均成長率26%を8年間にわたって維持している。そうして生まれた余力でさらにCSRに力を入れ、スクール以外でのプログラミング体験教室の開催や、地元サッカーチームのスポンサードを実施するなど「鳥取を元気にする」を実行している。
三大インフラを押さえてスマートシティ創造企業へ
コロナ禍においても同社の快進撃は続いている。早くからテレワークを導入していたため、業務に支障がなかったばかりか、むしろ追い風が吹いた。
「当社の顧客の約9割は首都圏の企業で、以前はコンプライアンスの観点からオンサイトでの対応を求められていました。しかし、コロナ禍によってどこもテレワークに対応せざるを得なくなったことで、首都圏企業のシステム開発を鳥取で担う『サテライト』が可能になり、時間と出張コストの削減につながりました」
追い風はほかにもある。2021年11月にかねてから取引のあった鹿島建設と資本提携を結び、IT人材の育成やDX化をサポートすることになった。鹿島建設にとって初の資本提携先として、地方のIT企業が選ばれた理由は、「人材教育に力を入れている」ことが決め手だったそうだ。
こうした取引先との連携を足掛かりに、同社が今後目指しているのは、鳥取の持続可能なまちづくりに寄与することだという。
「当社はこれまでIT技術を活用して、太陽光発電監視計測システムの構築や、電力トレーサビリティシステムの開発で電気経路の見える化などに取り組んできました。21年には、地域のマーケット全体を支える共通の配送網を整備してプラットフォーム事業も始めました。これからも通信、エネルギー、交通という三大インフラを押さえた事業展開で、スマートシティ創造企業を目指します」と、坂本さんは明確なビジョンを語った。
会社データ
社名:株式会社アクシス
所在地:鳥取県鳥取市扇町7
電話:0857-50-0375
代表者:坂本哲 代表取締役
従業員:210人
【鳥取商工会議所】
※月刊石垣2022年6月号に掲載された記事です。
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