長引くコロナ禍により多くの食品製造・加工業者が業績の低下に悩んでいるが、一方で地域の特色を出したり、消費行動に対応したさまざまなアイデアや販売方法を駆使したりして業績を上げている食品製造業もある。そこで、コロナ禍という逆風に負けず、自社の味にこだわり奮闘している各地の“食のものづくり会社”の取り組みを追った。
まちの青果店とコンビニを結びつけ青果業界が活気づいていくことに期待
コロナ禍による営業時間の短縮要請で外食産業は大きな打撃を受けたが、それらの飲食店に食材を納入していた青果店も苦境に陥っている。北九州市で青果の仲卸業を営んでいる髙上青果は、この状況を見かね、市内の青果店を救うためにコンビニ大手のローソンに依頼し、新たな取り組みを開始した。現在ではこれが全国各地に広がりつつあり、青果販売の新たな潮流になる可能性を秘めている。
コロナ禍で納品先を失った小さな青果店を助けたい
髙上青果は、主に産地直送の野菜や果物を扱う仲卸会社である。本来であれば仲卸会社は青果市場の中にあり、市場と小売店の間に入って売買を行うが、同社は北九州市の青果市場から少し離れたところにある。
「うちは農産物の生産者と直接つながって野菜や果物をつくってもらい、それを仕入れてスーパーに納品しています。市場で仕入れた農産物は誰が生産したのか分かりません。生産者の顔と人となりが見えて、つくり方が見えなければ、自信を持って顧客に販売できないというのがうちの信条なんです」と、同社社長の髙上実さんは言う。
同社は、髙上さんの祖父が開いた髙上商店という、今でいうコンビニのような店を、二代目が産直主体の果実卸売店に変え、三代目の髙上さんの代からは野菜も扱うようになっている。
食が豊かになり、スーパーが独自の野菜や果物を求めるようになる中、生産者から直接仕入れている同社の青果物の需要は高まった。九州各地のスーパーを顧客に持つようになり、順調に商売してきたが、そこにコロナ禍が起こった。自社が売り先に困ることはなかったが、小さな青果店の窮状を見ることになった。
「コロナで飲食店が止まって、市内の青果店の納品先が減ってしまい、みんな困っていました。小さな青果店は高齢者が経営する店ばかりで、店をやめるという話も聞くようになりました。私は青果市場の売買参加者でつくる組合の理事長もしていて、その組合員である青果店を助けてあげたかった。そこで、青果店に納品先を見つけてあげるために、ローソンさんにお声掛けしたんです」
コンビニの店舗で青果店の野菜や果物を販売
髙上さんが青果店の納品先を見つけるために話をコンビニチェーンのローソンに持っていったのは、自身の経験があったからだ。
「うちの会社の近くにあるローソンのオーナーから、店の周囲に青果店がなくて近所の人が困っているから野菜を店に置きたい、と相談されたんです。そこで、その店の近くに住むうちの社員が、仕事帰りに品物を持っていくことにしたんです。24時間営業のコンビニなので、何時に持って行っても問題ありませんから。売り上げ代金の一部は、販売手数料という形でローソンに還元しました」
同じような形でまちの青果店とローソンを結びつけようと、髙上さんは考えたのだ。そこでローソンの北九州支店に掛け合い、今では「北九州モデル」とも呼ばれるルールや手順などが決められた。
まず、店頭で青果販売をしたいローソン店舗と、ローソンで販売したい青果店を同社が結びつけ、青果店は市場で仕入れた青果を店に届けて陳列する。何を販売し、いくらで売るかは青果店が決め、売り上げの一部を手数料として青果店が店に支払い、売れ残りの損失は青果店が負う。いわば棚貸しのような形となっており、青果店は自分の店以外でも24時間、青果物を販売できることになる。
「昨年1月20日に、最初はローソン10店舗と青果店4店舗でスタートしました。そうしたらよく売れたのです。青果店が朝一番で仕入れた野菜や果物だから新鮮だし、中間マージンもないから値段も安い。小倉駅近くの商店街にあるローソンでは1日平均6万円売れています。これまで息も絶え絶えだった青果店が急に元気になったからマスコミにも取り上げられるようになり、販売したいというローソンの店舗も青果店もどんどん増えていきました」
青果店だけではなくコンビニ店にもメリット
この北九州モデルはローソンの店舗にもメリットがある。手数料が入るだけでなく、野菜や果物を買いに来た客が、ついでにほかの商品も購入するため、売り上げが増えるからだ。また、これまでコンビニには来なかった年齢層も来店するようになる。
同社とローソンはこのシステムを他県でも始めていき、最初は九州圏内、そして今では関西や関東、東北にも広がりつつある。そのたびに髙上さんは各地に飛んで行き、ローソンや青果店のオーナーへの説明会を行っている。
「これを広めていっても、うちの収入にはなりません。それよりも、これで青果業界が活気づけばと思ってやっています。地方の説明会に行くための出張費が出るくらいのお金をいただいている程度です。全国の方々に関わってもらっているので、これにより髙上青果が今後商売していくための裾野が広がり、それがいつかは大きな財産になることを期待してやっています。実際、東北地方の青果業者の方々から、その土地の果物をうちに卸してくれるというお話もいただくようになりました。そのような形で自社の利益に結びつけていければと考えています」
地方の青果店とコンビニを結びつけることは、同社一社だけでは難しい。そのため、兵庫県神戸市では神戸商工会議所が協力し、昨年12月に地元の青果店とローソン店舗をマッチングさせる説明会を開き、これまでに24店舗が青果販売を開始している。
「売り上げが減少して苦しんでいる青果店を支援するためにも、ぜひ各地域の商工会議所さんにご協力いただけたらと思っています」と、髙上さんは結んだ。
会社データ
社名:髙上青果有限会社(たかじょうせいか)
所在地:福岡県北九州市小倉北区日明3-6-16
電話:093-592-3388
代表者:髙上実 代表取締役
従業員:約20人
【北九州商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。
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