近年、地域資源の発掘や活用法の検討、市場調査から、商品開発、販路開拓(商談・ビジネスマッチング)、販売促進まで、地域の生産者の活動を全面的に支援するとともに、地域の〝稼ぐ力〟の向上に大きく貢献している「地域商社」の活躍が注目されている。特集では、すでに域外への販路拡大に成功し域内の経済循環に結び付けている取り組みや、ふるさと納税の返礼品やECの活用、地域全体のブランディングなどで成果を上げている事例を紹介する。
販路を拡大して地域と従業員に還元 地方の活性化と雇用創出に貢献
1994年に八戸商工会議所青年部の有志が中心となって設立されたファーストインターナショナル。地域初の貿易商社として、青森県の特産品の輸出と、加工品などの輸入を中心に事業を展開している。地道な活動で販路を開拓し、今や日本全国の企業に加え、海外18カ国と商取引を行っている。
米国の都市との姉妹提携をきっかけに海外に着目
ファーストインターナショナルは、八戸市に本社を置く貿易商社だ。八戸商工会議所青年部で国際化をテーマに活動していたメンバーが中心となって設立した。以来、地域に密着しながら生鮮リンゴや長芋、冷凍水産物などを輸出し、建築用木材、タマネギ、ワインやオリーブオイルを中心に輸入。そのネットワークを生かし海外のほか、日本全国との取引も幅広く展開している。
同社が誕生したきっかけは、いくつかある。まずは、1993年に同市が米国ワシントン州フェデラルウェイ市と姉妹都市提携を交わしたことだ。それを機に米国と行き来しながら交流を深める中で、単にイベントを行うだけでなく商流も生み出そうという機運が高まった。さらにその翌年、八戸港に東北初となる国際コンテナ定期航路が開設され、物流拠点都市を目指して官民一体となった取り組みが行われるようになったことも後押しした。
「青森県は生産量日本一を誇るリンゴの産地ですが、長らくその輸出を行っていたのは大都市圏の商社でした。それは地域に商社がなかったからですが、地域の特産品を自分たちの手で広く海外に発信し、届けたいと思ったことも設立の動機の一つです」と同社常務取締役、桜庭雅紀さんは説明する。
創設する際、輸出入の実務や貿易のノウハウを持つメンバーが地元にいなかったため、大手総合商社から経験者を招いて事業をスタートした。
〝フルーツ消費大国〟台湾との取引が突破口に
最初に取り組んだのは取引先探しだ。関係のあるホームセンターが台湾などから商品を輸入していたため、まずはそこと取引できたらと考えたが、あっさり断られてしまった。地元の大手企業のほとんどがすでに首都圏の商社やメーカーと取引しており、地方の、しかも貿易経験のない会社とは付き合えないと相手にされず、1~2年は手探り状態が続いた。
「小さなことから何でもというスタンスでやってきたある日、青果卸問屋の若手経営者が『タマネギを輸入したい』と飛び込んできたんです。やっと商社らしい仕事の依頼が来たと思いました。それから商談の機会が一つまた一つと増えていきましたが、私たち同様、当社を訪ねてくるのは社歴の浅い会社が多かったように思います」と現場を良く知る同社ゼネラルマネージャーの吉田悦子さんは当時を振り返る。
同社は商談がまとまるたびに、地元の新聞にリリースを送って取材してもらった。記事を通じて取り組みを発信し、会社の知名度を上げるためだ。こうしてコツコツと実績を積み上げ、とうとう少量ながら香港へリンゴの輸出を果たした。
転機が訪れたのは2009年。台湾が世界貿易機関(WTO)に加盟し、貿易が自由化されてからだ。
「台湾は、食卓に果物が並ばない日がないというほどのフルーツ消費大国。しかも、日本のリンゴが大好きなので、当初から目標にしていた輸出先です。各地の行政関係者や商社がこぞって台湾を訪れていたので、私たちもそれについて行って、現地で直接商談をしたあたりから、少しずつ取扱量が増えていきました」(桜庭さん)
海外の地域特性や商習慣を踏まえながら販路を拡大
同社は販路を開拓する上で、取引先が重視する商品の品質と安定供給を心掛けてきた。主に扱っているのがリンゴや長芋、冷凍水産品などの一次産品のため、品質や供給にばらつきが出やすいのだ。それをクリアするために、仕入れ先とこまめに情報交換をしているという。
もう一つ気を付けているのは、輸出先の商習慣を見極めること。というのも、〝日本の常識〟が通用しないことが少なくないからだ。例えば、日本では請求書を送れば期日までに支払うのが当たり前だが、アジア諸国はなかなか支払ってくれないことが時折あるという。
「販路が増えていくにつれて、むしろ日本が特殊だと思うようになりました。アジア諸国は悪意があるわけでも資金がないわけでもなく、『代金は1日でも遅く支払うのが優秀な経理』という意識が根付いています。そのため、何回も催促しないと払ってくれませんし、途中から『もっと遅らせてほしい』『さらに10%値引きしてほしい』などと交渉してくるので、日本人からすればやっかいに感じるかもしれません」(吉田さん)
だからこそパートナー選びが重要となる。同社では綿密に独自調査を行うほか、ジェトロ青森や金融機関を通じたマッチングなどの利用や、青森県農林水産物輸出促進協議会に所属するなど地方自治体とも連携しながらパートナー開拓に取り組んでいる。そうしてパートナーが決まったら、まずは少量の取引から始めて様子を見る。さらには、担当社員が定期的に輸出相手国へ出張し、現地のパートナーと信頼関係を築くことを心掛けてきた。
戸惑うこともあるが、距離的に近いアジア圏は、生鮮食品や冷凍水産物をメインに扱う同社にとっては重要な取引先である。逆に米国やカナダなどは契約社会のため、契約書に書かれていることはきっちり守ってくれるのでやりやすいが、生鮮食品は検疫の関係で輸出が難しいケースが多い。こうした地域特性を踏まえながら取引する国を増やしていき、現在その数は世界18カ国にも上る。さらにそのネットワークを生かして、国内での販路も年々拡大し、地域の商社が地元の特産品を全国に届ける仕組みを構築している。
輸出入と国内取引のバランスを取りつつPB商品にも注力
同社が事業を展開する中で常に念頭に置いているのは、地域と連携し、安定的に利益を出して地域を豊かにすることだという。
例えば、輸出品の主力であるリンゴの大半は津軽地方でつくられていて、ブランド化されており、海外からの人気も高い。しかし、同社の所在する南部地方でもリンゴを生産しており、蜜が豊富で「津軽リンゴ」と比べても味に遜色ないという。
「南部の生産者さんも、以前から海外に輸出したいという思いがありました。それを実現するために組合組織を結成し、当社も協力して輸出するスキームをつくりました。まだ小規模ですが、徐々に輸出量が増えていけば、生産意欲につながるのではと期待しています」(桜庭さん)
また、会社の利益を従業員にしっかり還元し、働きやすい職場づくりにも注力している。そこには給与を含めた待遇面の良い会社が地方にもあることを示して、若者の就業を盛り上げたいという考えがある。
「地方にはやりたい仕事がないと諦めている若者は少なくありません。しかし、英語を生かした仕事ができる、世界と取引し海外出張もできる会社が地方にもあると分かれば、若者も地元に残ってくれるのではないでしょうか。実際、会社の知名度が上がってきたこともあり、入社希望者が増えています」(吉田さん)
さらに同社はコロナ禍においていち早くテレワークを導入し、現在もそれを推進している。遠方から通う従業員が悪天候の中、無理して出社せずに自宅で作業すれば効率が上がるというスタンスだ。これはデジタルネーティブである若者に、自分の都合に合わせた多様な働き方ができることをアピールするのに効果的だと考えている。
地域密着型の商社として地道に販路を開拓し、地域活性化にも貢献してきた同社は、今後どのような展望を描いているのだろうか。
「コロナ禍を経験して、世界のサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)さが分かった今、特定の供給元や販売先への依存度が高くなると、そこが崩れたときのダメージが大きい。特定少数から仕入れて特定少数に販売する方が、効率はいいもののリスクは高い。コロナが終息しても、今後また何が起こるか分かりません。リスク分散の意味で、輸出先が特定の国や得意先に偏らないようにしたい。現在の当社の売り上げに占める輸出の割合が60%超と少し高いので、輸入と国内取引を増やしてバランスを取っていきたいです」と桜庭さんは語り、吉田さんがこう補足する。
「現在、国内向けのインターネット販売にも力を入れています。販売品は輸入したワインやオリーブオイルなどが中心ですが、今後は当社が開発したPB商品を大きく打ち出していく予定です。その第1弾として岩手県産の木炭をすでに販売していて、第2弾、第3弾の商品も開発中です」
同社は地域の未来を見据えて一歩一歩着実に進んでいる。
会社データ
社名:株式会社ファーストインターナショナル
所在地:青森県八戸市廿三日町2番地YSビル1F
電話:0178-71-2282
HP:https://www.firstintl.co.jp/
代表者:吉田誠夫 代表取締役
従業員:9人
【八戸商工会議所】
※月刊石垣2022年8月号に掲載された記事です。
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