草の根の活動には、参加する人々の心が映し出される。地域の子どもたちに食事を提供する「こども食堂」は、東京都大田区に住む1人の女性が独自に始めた取り組みだった。やがて、その活動は人々の共感を呼び、全国各地で急速に展開される事業に成長した。恵まれない子どもだけではなく、子どもであれば誰もが訪れることのできる居場所、それを提供することを創業者は目指した。そこには、家庭の経済状況で子どもを分断してはならないという意志が込められている。
▼仮に「こども食堂」が、政府主導のトップダウン型の政策であったとしたら、対象者を親の年収などでより分けたのではないだろうか。税金の無駄遣いと批判されることを懸念し、その結果、困っている子どもだけに限定する線引きがされていたかもしれない。政策を決定するときに、地域の人々の意志よりも経済的な合理性が優先される可能性は、現場から離れるほど高くなる。
▼確かに、政策が「合理的であること」は重要な要素の一つである。しかし、地域の人々にとっては子どもに公平に接することが何より大切だ。この「社会規範を育むこと」の意義を忘れてはならない。通常、合理性と社会規範という二つの要素が対立した際、合理性が重んじられる傾向が強いが、地域の人々が主体的に関わったことで、こども食堂は社会の規範を重視することが可能となった。そして、ボトムアップ型で政策を形成することを通じて、地域の人々は、社会に対する理想を具体化する機会を得て、地域社会への貢献を進んで行っているともいえる。社会における規範が失われつつある今、地域の人々が政策を主導していくことの価値を改めて問い直したい。 (NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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