全国各地にはさまざまな珍味があるがこれはびっくり、どっきり。恐る恐る口に入れて味わって、うまさが押し寄せてくるのを実感する。なにしろ相手はフグの卵巣だ。フグの卵巣には、青酸カリの500~1000倍の毒を持つテトロドトキシンが含まれ、2、3㎎で人間の致死量に達する。それを北陸の方々はいとも普通に召し上がっているのだ。「糠(ぬか)ふぐの子」という名のまさに珍味は、しかし一度食べたら確実にとりこになる。フグの卵巣は、糠と塩や麹(こうじ)、いしる(うるめいわし由来の魚醤(ぎょしょう))とともに約2年間漬け込み、〝発酵〟という日本伝統の風味付けがなされて、すっかり毒が抜けてしまう。漬け込んでいる間になんらかの解毒作用が働くわけだが、その理由ははっきりと解明されていないという。
糠色に染まったフグの卵巣は、糠をこそげ落とし、薄くスライスして皿に盛れば絶品の酒のつまみに。レモンを搾ると塩気が弱まりまろやかになる。少しあぶっても香ばしくてうまい。お茶漬けにもよい。そのほか、サラダにパスタに和え物に、何にでも合う。極上の調味料にもなる。塩分や魚卵を控えめにしている人もこれだけは絶対に食べてほしい。まさに〝日本の食遺産〟の一つだ。
Data
社名:油与商店(あぶらよしょうてん)
所在地:石川県金沢市金石上越前町4-15
電話:076-267-0031
【金沢商工会議所】
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