日米金利差を背景にした円安に伴い、輸入物価の上昇傾向が続いている。「インフレ圧力になる」「原材料の値上がりで中小企業の経営が圧迫される」といった指摘が新聞紙面をにぎわせている。
▼「わが社にとっては好機到来です」と話すのは自社製品の輸出増を目指す中堅企業の経営者だ。品質に自信はあったものの、他国企業との競争に負けるケースが少なくなかった。輸出専門の商社と組んだ結果、商談の機会が増える見通しという。財務省発表の貿易統計を見ても、今年上半期の輸出額は過去最高。7月単月もこの月としては最大の輸出額だ。明らかに円安でメリットを受ける企業も相当数ある。
▼しかし、メディアでは悲観的な報道の方が目に付く。理由は実に簡単で「困っている」と語る経営者の方が取材しやすいのだ。彼らはメディアを通じて窮状を訴える効果をよく分かっている。社会の認知を求めるスタートアップ企業と異なり、特に飲食や小売店で、それなりの存在になっているならば「もうかっている」と強調するのはためらうものらしい。「予約でいっぱいです」とテレビの取材に自慢した旧知のレストラン経営者は、翌年の納税申告で税務署から「もっと売り上げがあるはずだ」と厳しく追及された。
▼新型コロナウイルスの感染予防の際も「休業要請に応じたら店がつぶれる」と訴える店主の声をメディアがたくさん拾い上げた。第7波の前に客足が戻ると、この種のニュースはほぼ姿を消した。知人の元テレビマンは「他人の苦労話の方が視聴者の共感を得やすい」と解説する。公平公正な報道姿勢を貫いているとは言えず、こんなところにもメディア不信を助長する要素があると感じる。 (時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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