1948年創業の金栄堂はまちのメガネ店として地域に親しまれてきた。だが、少子高齢化が進む中経営は厳しくなり、三代目の那須丈雄さんはスポーツアイウェアへ主軸をシフト。オンラインの販路開拓や、自社でレンズやアプリの開発を進め、今やトップアスリートからも支持される店へと急成長した。
15歳で事業承継を決め東京で知見と経験を積む
2016年、39歳で金栄堂の三代目代表取締役社長に就いた那須丈雄さんが、継ごうと決めたのは15歳の時。医療関係か家業のメガネ店かで進路に悩み、後者を選んだ。理由は大きく二つ、より広く多くの人に役に立ちたいという思いと、祖父、父が築いた事業を、大きく発展させたいという熱意だ。
高校卒業後に山形から東京にある日本眼鏡専門学校に進学し、都内の高級眼鏡店で5年間修業した後に、家業に入る。全ては計画通り、のはずだった。
「修業した眼鏡店は富裕層対象で、接客マナーを厳しく教え込まれました。言葉遣いやイントネーションには相当苦労しました。そして、いざ実家に戻って店に立つと『よそよそしい』と不評で、また接客に2~3年は悩みました」と苦笑する。
金栄堂は山形県南東部に位置する長井市にあり、フラワー長井線長井駅から徒歩2、3分の好立地にある。1948年の創業時はメガネだけではなく時計、宝飾の兼業店だったが、二代目である父の孝さんが時計の売れ行きが伸びる中、あえてメガネ専門店へシフト。メガネのファッション化の時流をつかんで業績をV字回復させ、まちに11軒あったメガネ店の唯一の生き残りとして今日に至る。この成功体験と長年、店を切り盛りしてきた自負、顔なじみの地元客から信頼されている二代目と、家業を継ぐことになる那須さんが考える店舗展開は違った。
那須さんは地元だけではなく、県外の顧客獲得を狙ったスポーツグラスやサングラスなどスポーツアイウェアを強みとする店舗への刷新を考えたのだ。
オンラインで情報発信 自社の〝強み〟を育む
「方針のすり合わせよりも、現実路線で、事業承継に必要な管理医療機器管理者、防災管理者などの資格取得に努めました。それに今のままでは事業は先細るという共通認識があったので、市場開拓は一任してもらえました。とはいえ予算は限られているので大それたことはできません。そこでネットに着目しました」と那須さん。
長井市の人口は約2万5500人(2022年現在)と少子高齢化が進んでいるため、市外の顧客獲得は必須だ。那須さんは入社早々にホームページを整備し、08年には金栄堂楽天市場店・SPORTSEYESを開設、10年にはユーチューブの動画配信を開始する。ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどのSNSを駆使し、更新頻度は今なお高い。
また既製のメガネの販売だけに終始していない。まぶしさを抑えつつ自然に見えるレンズの開発技術で14年に日本特許を、16年には米国の特許を取得し、その技術を応用したオリジナルレンズ「Fact®-ファクト-」をリリースする。
「自社ブランドの開発費もクラウドファンディングで調達しました。今は、オンラインを活用しない手はありません」と那須さん。
一方で、女性客の拡大を図ってメガネのファッションブランド事業で大赤字を出したこともあると苦笑するが、新しいことに挑戦し続けた。
地元も遠方も視野に入れ交流を重ねて事業を拡大
社長就任前から活躍目覚ましい那須さんだが、16年の就任は計画でも戦略でもなかったという。先代の認知症の進行と母の脳梗塞の初期症状が重なり、事業承継が本格化した。
「手続きが思っていた以上に膨大で顧問税理士やコンサルタントを交えて1、2年かけて進めていきました。日本商工会議所青年部の山形県代表理事を務めていたことがきっかけで事業承継補助金の存在を知り、長井商工会議所にサポートしてもらえたことも大きかったです。必要な手続きのリストアップ、スケジュール管理、事業の予算組み、当社の課題の洗い出しも含めていろいろなアドバイスをしていただけました」と那須さん。
社長に就任して後は、攻めるだけではなく守ることも意識するようになったと語り、従業員の待遇見直しや地域貢献にも力を入れた。ローカルラジオ番組のパーソナリティーを務め、子どもたちの目を有害な紫外線から守りたいと、地元の小学校にサングラスを寄贈するなど、時間とお金を惜しまず動いた。
「スポーツアイウェアの販売から、お客さま一人一人に合ったカスタマイズが当社の強みです。トップアスリートに支持される店舗になりましたが、人的ネットワークやフィッティング技術、加工技術は先代の時代があればこその発展です。メガネ小売店約50社が共同仕入れ・販売を手掛けるボランタリー・チェーンにも参画し、Fact®-ファクト-も全国10社で扱っていただいています。人と人の縁の大切さを痛感しています」
メガネ計測販売スマホアプリ「ファクトメジャー」の開発も功を奏して、19~22年にかけて売上高は15%アップしている。
「100年後には、メガネがどのように進化しているか分かりませんが、その時代に即した情報発信、商品開発をする店であってほしいです」
まずは創業100年に向けての変化、進化に期待が高まる。
会社データ
社名:有限会社金栄堂(きんえいどう)
所在地:山形県長井市栄町4-3
電話:0238-88-3062
HP:https://www.kineidou.co.jp/
代表者:那須丈雄 代表取締役社長
従業員:4人
【長井商工会議所】
※月刊石垣2022年9月号に掲載された記事です。
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