去年の話になるが、山梨県は山中湖村に初めてお邪魔した。文化庁の文化芸術創造拠点形成事業の審査委員としての仕事で、事業が実際にどのように運営されているのかを視察するというものである。
視察対象は「山中湖文学の森 三島由紀夫文学館・蘇峰ふれあい館」で開かれるコンサート。会場では、三島由紀夫文学館の館長が出迎えてくださったのだが、かつて近畿大学で同僚だった佐藤秀明先生その人で面白いご縁を感じる。
コンサートのタイトルは「音楽が結んだ三島と環 ~三島由紀夫生誕100周年・三浦環没後80周年記念コンサート~」。三島由紀夫は作家や政治活動家として著名な人物であり、三浦環は日本初の国際的オペラ歌手だが、当初は2人の関係がよく分からなかった。
三浦環は1944年に山中湖村に疎開した。当時愛用していたヤマハ製アップライト・ピアノが修復を経て村で保管されている。一方の三島由紀夫は、作中に山中湖が登場することもあり、三島文学の研究と普及のために文学館がつくられた。山中湖村が、三島家に保管されていた大量の資料を一括して購入したというから驚きだ。
コンサートは『三島由紀夫VS音楽』という書籍の著者である宇神幸男氏の語りで進む。「三島由紀夫の愛した音楽」という演題で、三島の音楽遍歴を解説してゆく。途中で「では、その時に流れていたであろう曲を聴いてみましょう」と、今度は東京音楽大学の学生による生演奏が始まる。実に斬新な文学と音楽の融合イベントになっていた。同大学准教授の早坂牧子氏によるコーディネートが光る。
三島は三浦環の最後の舞台を鑑賞し、影響を受けて小説『蝶々』を執筆したそうで、関わりがあることも理解できた。断片化した出来事、その間隙(かんげき)をトークやコンサートなどの「今」のパフォーマンスで埋めてその関係性をつなぎ、ゆかりの場所で「関係性の絵」を描いて魅せる。巧みなコンテンツツーリズムの在り方を見た。

