2022年3月に131件認定された「100年フード」の中から、日本が誇る食文化を文化庁、有識者がリレー形式で紹介します。
江戸時代から続く伝統的な郷土料理というと、地域の農産物や海産物を使った地産地消の食べ物という印象を受けますが、地域の食文化を育んだ要因はそれだけでは語れません。日本の食文化に特に大きな影響をもたらしたといえるのが、江戸時代中期から明治期にかけて北海道から大阪まで、日本海沿岸を西回りに航行し、さまざまな物資を寄港地で売買した北前船の交易でしょう。
北陸地方には北前船の船主が多く、彼らは大阪で買い付けた酒や砂糖を北海道へと運び、帰りは空いた船にまた物資を積み込んで出航したのです。北海道から運ばれたのは、昆布に身欠きニシン、鮭の塩引きなど、和食文化の基礎を支える重要な食材ばかりでした。
敦賀や小浜といった北前船の寄港地を有する福井県の若狭地方では、北海道から運ばれた身欠きニシンでつくった「ニシンのすし」が受け継がれてきました。塩漬けの大根と身欠きニシンに米麹を混ぜて、2週間ほど熟成発酵させてつくる「なれずし」の一種です。現在は、主にお正月のおせち料理向けに冬場に流通していますが、かつては夏にもナスやキュウリといった夏野菜で仕込み、忙しい秋の刈り入れ時に手軽に取れる保存食として重宝したそうです。
現在はスーパーなどでも購入できるようになり、家庭で手づくりする機会は減りましたが、地域の団体が伝承に取り組むなど、今も若狭の故郷の味として親しまれています。発酵という伝統的な技術と北前船の交易がもたらした食材が生んだ、素晴らしい100年フードです。
100年フード
文化庁は、①地域の風土や歴史の中で創意工夫し地域に根差したストーリーを持つ②世代を超えて受け継がれてきた③地域の誇りとして100年を超えて継承することを宣言する団体が存在する、食文化を「100年フード」として認定しています。
100年フード公式ウェブサイト ▶ https://foodculture2021.go.jp/jirei/
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