政府は10月11日、1日当たり入国者数制限を撤廃し、多くの国のビザなし個人旅行客の受け入れを開始した。同時に国内においても、全国旅行支援(全国旅行割)が施行された。この結果、各地の観光地は久々の観光客増でにぎわい、地域によっては、一時的にコロナ禍前を上回るような状況も現れているという。しかし、その半面で、観光業界は大きな問題に直面している。深刻な人手不足である。
▼2年以上にわたるコロナ禍で、旅館・ホテルをはじめ観光関連業界の従業員の多くが、観光分野以外のより労働条件や賃金の良い分野を求めて移動しており、再び彼らを呼び戻すことは難しい。今後、インバウンド需要が本格的に戻ってくれば、人手不足はさらに深刻な状況を迎えると思われる。実際、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会加盟のホテルを対象としたある調査では、約9割の旅館・ホテルが人手不足と回答している。
▼こうした状況の中、外国人人材の採用を目的として2018年に閣議決定された「特定技能制度」の利用は、22年6月末現在で約8万7千人を受け入れている。しかし、その多くは飲食料品や電子部品などの各種製造業、農業などの分野で、宿泊などの分野ではほとんど実績がない。コロナ収束がささやかれるようになった今年以降、人手不足問題は早くから指摘されていたが、結局は現場課題が十分に伝わらず放置されてきた。
▼失った人材には、長年の経験を積んだ優秀な人々も含まれている。これまでの経験で、外国人対応に慣れた人材もいたであろう。観光立国を標榜するわが国として、こうした観光を取り巻く労働現場の抜本的改善は喫緊の課題である。 (観光未来プランナー・日本観光振興協会総合研究所顧問・丁野朗)
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