2022年3月に131件認定された「100年フード」の中から、日本が誇る食文化を文化庁、有識者がリレー形式で紹介します。
下野国の料理だから「しもつかれ」というともいわれるが、地元に伝わっているシミツカリ、スミヅカリなども古い呼び名であろう。大豆を炒(い)って温かいうちに酢をかけて表面をしわにしたものを「すむつかり」といったと、『宇治拾遺物語』の「慈恵僧正、戒壇築タル事」(巻四ノ一七)にあるが、これが訛(なま)ったものともいわれる。
しもつかれは、2月の初午の日に各家庭でつくられる。大根を粗く「鬼おろし」ですって、そこに正月肴(さかな)の塩びき鮭(さけ)の頭、節分の豆まきに使った大豆、ニンジンや油揚げなどに酒粕(かす)を入れてしょうゆ味に煮る。この味は家ごとに少しずつ違っている。「初午にしもつかれを七軒食べ歩くと中気にならない」ともいわれた。そして、屋敷の隅に祭っているお稲荷さんに藁苞(わらづと)にしもつかれと赤飯とを乗せて供えられもする。
正月の塩びき鮭の残りと節分の大豆を入れているのが特徴であり、残り物を大切にする気持ち、いわばSDGsが注目されようが、民俗学の観点からは、もう一つ、正月の年取りのための大豆を、大根と合わせて煮て食べやすくしているのも注目される。昔は正月に鏡餅や雑煮で年取りをするのと同じく、旧正月には大豆で年取りをした。大豆も餅も生命力を象徴するもので、1年の豊饒(ほうじょう)と健康を願う食べ物だった。
現在、「しもつかれブランド会議」がしもつかれの保存継承活動を行っている。元々家ごとにつくられ食されてきた初午の日の郷土料理から、それが継承されながら新しい食文化の世界を開いている点が注目される。カレーや菓子へのアレンジなどの動きも興味深い。
100年フード
文化庁は、①地域の風土や歴史の中で創意工夫し地域に根差したストーリーを持つ②世代を超えて受け継がれてきた③地域の誇りとして100年を超えて継承することを宣言する団体が存在する、食文化を「100年フード」として認定しています。
100年フード公式ウェブサイト ▶ https://foodculture2021.go.jp/jirei/
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