AIエンジニア、ユーチューバー、ギグワーカー。これらはIT技術の飛躍が生んだ職業だ。デジタル社会をけん引する最先端の仕事に魅力を感じる人は多い。既存の職業でも、志の高い人ほど自身の専門性を意識したキャリアや起業につながる道を探求する。もはや大企業で安定したポジションを得て、与えられた仕事を全うするという従来のキャリアパスは古ぼけて見える。
▼新たな時代を切り開く者が安心してキャリアを積んでいくための仕組みは整っているのか。残念ながら現在のセーフティネットは企業で働くサラリーマン世帯を念頭に置いたもので、社会を動かす人々を守っているとは言い難い。
▼今後、増加が見込まれるフリーランス。企業からの保険料の拠出がないため、老後の年金は低くなりがちだ。土地や店舗などの資産を持たない事業主の生活が困窮するリスクは高い。また、現行の制度は活躍が期待される女性の就業にもブレーキをかけている。一定の所得水準に満たない扶養者は、社会保険料を支払う必要がない。そのメリットを失いたくないため労働時間を調整し、低所得に抑える傾向がある。この制度のままではせっかくの女性の社会進出に水を差す。
▼古いセーフティネットを、時代に合った新しい仕様に替えなければならない。それは、人々がどのような選択をしても不利益を被らない制度だ。未来を形成する職業や産業の発展をリードする人々が過大なリスクを背負っていては、社会の発展につながらない。政府部内では、次回の年金制度の見直しに向けた議論が始まった。社会のうねりを不可逆的な変革の流れにつなげられるかどうかは、セーフティネットの制度設計にかかっている。 (NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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