Q 当社では、写真コンテストを実施して一般から募集した写真を、当社が発行する雑誌に掲載したいと考えています。それらの写真の中には、撮影対象の被写体の背景に、小さくポスターや絵画が写り込んでいるものもあります。このような写真を雑誌に掲載することは問題ないでしょうか。
A 撮影対象の被写体の背景に、小さくポスターや絵画が写り込んでいるものであれば、そのポスターや絵画は「付随対象著作物に該当する」として、著作権者の許諾なく利用可能であるといえます。著作権法では、付随対象著作物の利用について定めがあり、付随対象著作物については、複製等が著作権侵害には当たらず、付随対象著作物を利用できるとされています(30条の2)。
写り込みとは?
例えば、写真や動画を撮影する際に、目的の被写体の背景に、たまたま一緒に、著作物であるキャラクターが写ってしまうような場面があります。このような場面を指すものとして、「写り込み」という語が用いられています。写り込みにおいては、背景にある著作物であるキャラクターも複製することになるため、著作権侵害(複製権侵害)となるかが問題となります。
著作物の複製と複製権侵害
そもそも、複製といえるためには、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することが必要であるとされているところ、写り込んだ著作物であるキャラクターが、例えば特定できないほど不鮮明であったり、極めて小さく識別が困難であったりする場合には、複製とは言い難く、著作権侵害は問題にならないと考えられます。
また、個人が撮影した写真に著作物であるキャラクターが写り込んでいたとしても、通常は私的使用目的の複製(著作権法30条1項)に該当することから、当該キャラクターの著作権者の許諾がなくても複製権侵害には該当しません。もっとも、個人が撮影した写真であっても、これを雑誌に掲載したり、ウェブサイトに掲載したりするために複製する場合には、私的使用目的の複製には該当しません。
著作権法30条の2~付随対象著作物の利用
私的使用目的の複製に該当しない場合であっても、2012年の著作権法改正により、著作権法30条の2第1項において、写真の撮影、録音又は録画の方法によって著作物を創作するに当たって、当該著作物(写真等著作物)に係る撮影等の対象とする事物等から分離することが困難であるため付随して対象となる事物等に係る他の著作物(付随対象著作物)は、当該創作に伴って複製又は翻案することが、著作権侵害とはならない旨が規定されました。
12年改正当時の文化庁の解説では、次のような著作物の利用方法は、著作権法30条の2の対象であり、著作権侵害とはならないと説明されています。
①写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
②街角の風景をビデオ収録したところ、本来意図した収録対象だけでなく、ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
③絵画が背景に小さく写り込んだ写真を、ブログに掲載する場合
④ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を、放送やインターネット送信する場合
本件の場合、撮影対象の被写体の背景に小さくポスターや絵画が写り込んでいるということですので、著作権法30条の2第1項の付随対象著作物の利用に該当し、著作権者の許諾なく利用することが可能であると考えられます。
著作権法30条の2は、20年の著作権法の改正により、写真の撮影、録音または録画に限定されていた対象行為を複製全般のほか、複製を伴わない伝達行為も対象とするなど、対象範囲の拡大がなされています。 (弁護士・佐々木 奏)
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