わが国の農林水産物・食品の輸出額は2021年に1兆円を超え、25年に2兆円とすることを目指す。今や食品の輸出に力を入れている企業は、日本産というだけではなく、輸出先となる各国の事情に合わせて独自の製法を生かし、細かな戦略で新たな需要を開拓している。そんな地域企業の取り組みを追った。
いなり寿司を世界各地で紹介し味付け油揚げの需要を開拓
阿蘇山を源流とする筑後川水系の地下水が豊富な福岡県朝倉市にあるオーケー食品工業は、その良質な地下水を使い、いなり寿司(ずし)をつくる業務用の味付け油揚げを製造している。この分野で国内トップクラスのシェアを誇る同社は、海外でも販売するため、各国の食事情に合わせた製品づくりを行っている。日本の伝統食であるいなり寿司を海外に広める努力をすることで、現在は約30の国と地域に製品を輸出している。
海外担当部門を設立して食品見本市に積極的に参加
オーケー食品工業は、味付け油揚げの製造に特化してきたメーカーで、現在は大豆関連商品の製造も行っている。同社が輸出を始めたのは、1975年ごろ、韓国が最初だった。65年に日韓の国交が正常化し、70年に下関と釜山の間にフェリーが就航すると、下関から韓国に行商に行く人が出て、細々といなり寿司が韓国に運ばれていった。それがきっかけで、味付け油揚げそのものも輸出されるようになった。その経緯について、同社の海外営業部課長の野寄はるかさんはこう説明する。
「行商の方々に商品を卸す問屋を通じて輸出するようになりました。行商はもうなくなりましたが、今も輸出売上高の半分近くが韓国向けです。その後、91年前後に回転寿司チェーンが米国に進出した際に、弊社がそのチェーン向けに味付け油揚げを生産していた関係で、米国への輸出も始めました。この二つが、弊社が海外に出ていくようになったきっかけです」
2000年代に入り政府が農林水産物・食品の輸出促進政策を進める中、同社は輸出を戦略的に増やしていくため、13年に海外担当部門を設立した。また同年には、イスラム圏に食品などを輸出するためにハラール認証(イスラム教で禁止されているものが製品に含まれていないことを認証する制度)を取得している(21年に認証廃止)。
「その後は、海外の新たな顧客を増やすために、海外の展示会に出展したり、国内の国際的な食品見本市で積極的に商談会に参加したりしていきました。そして、商社と一緒に現地に営業に行き、市場調査をして、商品輸出に戦略的に取り組み始めました」
世界各国の寿司店を回り飛び込みで営業も
現在、同社の製品は30の国と地域に輸出されており、特に韓国、米国ハワイ、カナダ、英国、EU地域で高いシェアを獲得。同社の年商の約9%を海外輸出額が占めている。取引は商社を通じて行っているが、販路拡大を商社に任せきりにせず、野寄さんが同行営業や現地見本市に赴いている。
「コロナ禍前は2カ月に1回は海外に出て、2~3週間かけて国や都市を転々と回り、地球を1周して帰ってくる感じでした。1都市に滞在するのは長くて3、4日で、短いところは日帰り。1日10軒ぐらい現地の寿司店に行き、いなり寿司を食べてみて、うちの油揚げでなかったら売り込みをかけます。味や形でだいたい分かります。そのため、海外に行ってもいなり寿司ばかり食べています」
野寄さんによると、米国やカナダなど日系人や韓国系移民が多い国では、いなり寿司の消費が多い傾向にあるという。また、オーストラリアはテイクアウトの寿司店が数多くあり、ヨーロッパはベジタリアンやヴィーガンが多いことから、魚を使わない寿司として、アボカドの寿司といなり寿司がよく食べられている。また、東南アジアではマレーシアが突出していなり寿司の消費量が多く、寿司のチェーン店では、いなり寿司を独自にアレンジしたメニューが多岐にわたっているという。
「いなり寿司が各国でそうやって受け入れられつつも、なぜかフランスだけは、いなり寿司が受け入れられていません。弊社ではフランスへの輸出実績がほぼゼロです。何が原因なのかを昨年から探り始めているところです」
高スペック製品などで新たな市場開拓へ
国や地域によって製品に求められるものが異なり、特に欧米向けはアジア圏とは異なる商品設計が必要になることが多い。同社では、ヨーロッパ向けにGMOフリー(遺伝子組み換え作物不使用)、米国向けにはグルテンフリー(小麦粉不使用)などの製品を輸出している。
「また3年ほど前から、欧米からは製造現場での労働者の環境、休みや給料は適正かなど、原材料までさかのぼり、強制労働の有無や焼き畑農場でつくられていないかといったことまで調査されるようになりました。分からない部分については分からないと回答しています」(野寄さん)
一方、コロナ禍に入ってからは、ヨーロッパ市場、特に英国で販売が大きく伸びた。これはロックダウンでレストランが閉まったことで中食の需要が伸びると、いなり寿司を含めた寿司も売り場に並ぶようになり、それが飛ぶように売れたからだった。
「コロナ禍でも生活が普通に戻ってくると、一時期の伸びはなくなりました。そこで、22年9月から海外での営業を始めていて、私も今年2月に2週間かけて各国を回って展示会の出展や営業をしていく予定です。今後については、これまでの大衆向け商品だけでなく、スペックの高い製品で攻めていくことが一つ。あとは中近東やアフリカといった物流がまだ整っていない地域で、常温タイプを使って新しい市場を開拓していこうと思っています。まだまだやるべきことがたくさんあります」と、野寄さんは笑顔で結んだ。
いなり寿司という、日本料理で代表的ともいえる食べ物を海外に広めつつ、その材料の味付け油揚げを販売していく。同社の取り組みは、多くの食品関連企業にとって参考となるだろう。
会社データ
社名 : ニップングループ オーケー食品工業株式会社
所在地 : 福岡県朝倉市小田1080-1
電話 : 0946-22-7131
代表者 : 竹田 哲 代表取締役社長
従業員 : 約400人
【朝倉商工会議所】
※月刊石垣2023年1月号に掲載された記事です。
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