ここへ来て、アジア新興国の輸出にブレーキがかかり始めた。2022年10月、中国のドル建て輸出が前年同月比で0・3%減少し、韓国の輸出も同5・7%減だ。シンガポールの輸出増加ペースも鈍化している。
11月まで、米国FRB(連邦準備制度理事会)は4回連続で0・75ポイントずつ追加利上げを行った。その効果は徐々に実体経済に出始めているようだ。今後もインフレ鎮静化のための金融引き締めは長引く可能性が高い。FRBの金融引き締めによって米国の個人消費は減少し、世界的に貿易取引が減少する可能性は高まっているとみるべきだろう。また、中国では先行き不透明感の高まりによって消費者の節約志向が強まっている。10月、中国の輸出が予想に反して減少した。それは、世界経済の今後の展開にとって軽視できない変化だ。
最も重要なポイントは、米国の個人消費の増加の勢いが、徐々に弱まり始めたことだろう。21年秋以降、〝ブラックフライデー〟を控える中で米国の個人消費は大きく盛り上がった。盛り上がりの背景として、連邦政府による失業保険の特例措置などによって、家計の貯蓄率が一時的に押し上げられたことがある。それに加えて、経済と社会がウィズコロナに向かう中で、サービス業などで人手不足が顕在化した。企業は人手確保のために賃金を積み増した。個人消費の勢いは増した。その結果、21年は年末商戦が近づくにつれて中国からの雑貨や玩具などの輸入が急速に増えた。あまりに強い需要を国内の供給力で満たすことができず、22年1~3月期の米実質GDP成長率はマイナスに陥った。
しかし、22年夏以降、米国の輸入増加ペースは鈍化している。FRBのインフレ鎮静化が後手に回り、一度に0・75%という通常の〝3倍速〟の追加利上げが続いたことは大きい。少しずつではあるが、米国の個人消費の勢いの鈍化傾向が見え始めた。その結果、中国やアセアン地域などの輸出が減少している。中国から米国向けの輸出は10月まで3カ月連続で減少した。
アジア諸国の貿易取引の停滞によって、春先までひっ迫感が強まった海運市況は悪化している。英ドルリーが発表する世界コンテナ・インデックスによると、上海からロサンゼルスに向かうコンテナ運賃(40フィート)は7月28日から11月3日までの間に67%下落した。年末商戦を控える中で米国の企業は在庫の積み上がりに直面している。
ただ、今のところ米国の労働市場はタイト気味だ。短期的に、米国では賃金が緩やかな増勢を保ち、物価は高止まりする可能性が高いとみられる。それに対して、FRBは想定以上の期間にわたって、金融引き締めを続けることが想定されており、米国の金利はさらに上昇すると考えられる。懸念されるのは、金利上昇が米国の個人消費を一段と下押しする展開だ。金利上昇によって、企業の業績は悪化し、雇用削減は鮮明となるだろう。家計の住宅、自動車、クレジットカードなど、ローン返済負担も増え消費も下押しされやすい。FRBによるインフレ鎮静化は世界経済にかなりのコストを強いる恐れが増している。
中国では個人消費が低調だ。10月、中国の輸入は前年同月比0・7%減少した。不動産バブル崩壊、さらには雇用と所得環境を支えたIT先端企業への締め付け強化が消費者心理を圧迫している。党大会を経て、習政権は体制強化のための政策運営を優先する方針を示し、経済政策は後回しになる恐れが増した。今後、米国の個人消費の軟化が鮮明化し、それと同時に中国の個人消費が腰折れ状態に陥るようなことになると、春以降、世界的な景気後退は避けられないだろう。米国の輸入減少、中国などアジア新興国の貿易取引のモメンタムの低下は、そうしたリスクの上昇を示唆する。世界経済の先行き不透明感は増し、株式や為替などの金融市場の波乱要因にもなりかねない。そのリスクは頭に入れておいた方がよいだろう。 (2022年11月13日執筆)
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