さまざまなSNSを活用し、多くのフォロワーを抱えているインフルエンサー。特に若年層への訴求力があることから、SNSを使って発信するインフルエンサーが注目されている。スマートフォン1台あれば、全国どこからでも始められるSNSは、中小企業や地域企業と非常に親和性が高い情報発信ツールでもある。そこで、自らインフルエンサーとなり自社情報を発信し、知名度アップや販路拡大に成功した企業や商工会議所の取り組みを追った。
「部下が会社で料理」動画が話題 SNSで収益上げ事業の柱に
宮城県仙台市で総合建設業を営むリンクロノヴァは、コロナ禍で現場の仕事ができなかったことをきっかけにSNSで情報発信を開始した。試行錯誤の末、現在では「部下が会社で勝手に料理する」というユニークなシリーズ動画が大きな話題となり、SNSで収益を上げているほか、本業の受注や人材確保にもつながっている。その成功の秘訣(ひけつ)を同社代表の長野雅樹さんに聞いた。
起業した途端にコロナ禍 SNSで情報発信を開始
宮城県仙台市にあるリンクロノヴァは、内装や空調、土木など15種類の建設業許可を持つ総合建設業で、職人不足の企業と職人を結ぶビジネスマッチングや電気通信の設計を行っている。代表の長野雅樹さんは、前職の会社員時代から独立を目指して経営などを学び、2020年3月に同社を設立した。
しかし、スタートした矢先にコロナ禍になり、現場での仕事は次々にキャンセルされてしまった。そこで長野さんは、SNSを使って情報を発信することにした。ビジネスマッチング事業は全国展開を計画していたため、全国に情報が届くSNSでファンづくりをしようと考えていたのである。
「建設業の中で本気でSNSを運営している会社はなかったので、コンテンツに力を入れれば、他社に勝てるのではないかと思いました。顧客から信頼を得られれば価格競争にはならないので、信頼されるブランディングをすることが目的です」
自社のホームページ制作を外注する際、トップページにツイッターやインスタグラム、フェイスブック、YouTubeなど六つのSNSのリンクを貼ってもらった。それまで長野さんは、SNSで情報を発信したことはなかったが、現場の職人たちが働く写真や職人らしい言葉などを毎日自分で投稿した。SNSに投稿することで、建設業の何が格好いいのかを意識することができるようになり、続けるうちに投稿が習慣化した。少しずつでもフォロワー数が増えたことがモチベーションになった。
YouTubeではエアコンや電気についての豆知識などを長野さんが話す動画を毎週1回投稿した。動画制作は毎月60万~70万円で映像制作会社に外注しており、総額2000万円を借り入れした。これは経費がかさみ続かなかった。
そこで、長野さんはYouTube用動画を作成できる人を自社で雇うことにした。そして出会ったのが、現在は同社の動画で「部下」として登場するKさんである。長野さんたちは毎日、トライアンドエラーを繰り返した。動画に寄せられるコメントなどの反響を分析し、何が高評価につながるのかを研究した。自社に直接関係のある建設や電気関連の投稿を続けたが、フォロワー数は5000人程度から伸び悩んだ。
エンタメ動画に挑戦するも「遊んでいるのでは?」
21年3月ごろ、長野さんはショートムービー投稿サイト「TikTok」にもチャレンジすることにした。それまでやってきたSNSとは違い、音楽やダンスなどエンタメ中心のSNSである。
「建設の話が好きな人よりはエンタメ好きの方が多いだろうから、ファンをつけるためにはいいのではないか」と長野さんはKさんと話し合った。エンタメなので何か面白いことをやろうと「怒る部下と怒られる社長」という内容の短い動画をつくり、平日は毎日投稿した。
一方、社内ではほかの事業が売り上げを伸ばしていた。SNSは結果に結びつかないため、建設や設計の担当者から「遊んでいるのではないか」と思われていたという。長野さんはKさんと共にSNSコンサルタントとして営業し、他社のSNS動画投稿を代行するなど売り上げに貢献する努力をした。
料理動画で大きな話題にフォロワー10万人達成
同社のSNSに大きな変化があったのは、22年になってからである。Kさんから料理動画の提案があった。しかし食材費がかかるため、当初は愛妻弁当を開けたらスナック菓子が入っているという「弁当シリーズ」からスタートした。そのうちに弁当が料理になり、Kさんが会社で鶏のから揚げをつくって長野さんが食べる、という動画を投稿したところ好評だった。こうしてできあがったのが現在も続く「部下が会社で勝手に料理シリーズ」である。
同社の動画撮影はスマートフォン1台のみを使用し、「会社で料理」なので撮影用照明も専用マイクもあえて使わない。食材費は1回当たり2000円以下である。投稿頻度はコンテンツの質を高めるため、毎日から毎週3回に変更した。
こうした積み重ねの結果、22年5月にフォロワーが急増した。それまでYouTubeの同社チャンネル登録者数は約600人、TikTokのフォロワー数は約1万2000人だったが、いずれも短期間に10万人を達成した。
「試行錯誤を重ねて、現在のフォーマットができました。ワンパターンといわれることもありますが、会話や料理が毎回違います。SNSだけの演出をすると続かないので、僕は素のまま画面に出ています。実際に会う人から『動画で見た通りの人』と言われた方がいいですから」
話題になっている料理シリーズは本業には直接関係ないが、見た人が「この人はいつも会社で料理を食べているけれど、何の会社の社長?」と興味を持って同社のホームページを見てファンになる。これがSNSによるファンづくりのコツなのだそうだ。
YEG関連で野球選手登場 SNS効果で新ビジネスも
22年12月、同社はYouTubeの年間ランキング「急成長クリエイター部門」で1位を獲得した。チャンネル登録者数は76万人、TikTokのフォロワー数は84万人で、その他のSNSも含めた合計フォロワー数は約170万人(22年12月現在)である。広告収入をはじめとするSNSの効果は大きく、同社の事業は総合建設業、電気通信の設計、SNSの3本柱となった。
本業ではSNSを通じて、香川県など遠方の企業からも「宮城県内で仕事がある」と依頼が来るようになった。人材確保はSNSや知り合いからの紹介で十分足りるようになり、大手求人サイトへの掲載が不要になった。そして、オリジナルマグカップを制作してSNSで販売したところ想定外に売れ行きが良く、今後もオリジナルグッズ販売などの予定がある。
さらに中国のSNSにも進出しており、長野さんの同国でのフォロワー数は複数のSNS合計で100万人以上いる。中国のSNSがきっかけとなり、本業の建設業関連の新ビジネスも始めることになった。こうした成功の秘訣を長野さんは次のように語る。
「企業アカウントとしてSNSを面白く運営するにはお金を出すだけではダメで、経営者の熱量が最も重要です。片手間ではなく、SNSも本業とイコールと思って考えます。例えば、当社のSNS担当者が勤務時間中に他社アカウントの動画を見て笑っていても、それは競合の調査やマーケティングですから給料を払います。そうやって本気で考えればフォロワー獲得やマネタイズにつながるんです。コンテンツで一番大事なのは『品格』ですが、品格を守りすぎると面白くないし、守らなければ炎上します。このギリギリのバランスをどのように保つのか、いつもトライアンドエラーを繰り返しています」
長野さんは仙台商工会議所青年部(仙台YEG)のメンバーでもある。仙台YEGのつながりから、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの選手が長野さんの動画に登場したこともある。また、仙台商工会議所とのつながりから、22年には愛知県の西尾商工会議所で特別講演会を行った。
「今後もSNSの成功事例として、全国でセミナーや講演会を開いていきたい」という長野さん。将来は仙台を拠点にした地元密着タレントのように活動し、「東北各地の産地へ行っておいしい食材を紹介して地域貢献もしたい」と意気込みを語った。
会社データ
社名 : 株式会社リンクロノヴァ
所在地 : 宮城県仙台市太白区富沢2-18-22
電話 : 022-765-3720
HP : https://lincro-nova.co.jp/
代表者 : 長野雅樹 代表取締役
従業員 : 5人
【仙台商工会議所】
※月刊石垣2023年2月号に掲載された記事です。
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