1993年に静岡市の呉服町名店街から始まった「一店逸品運動」とは、店がお客に自信を持っておすすめできる商品、すなわち「逸品」を打ち出すことで、個店や商店街など地域商業の活性化を図る活性化事業。異業種の商人同士それぞれが知恵 を分かち合い、意見を出し合って逸品はつくり出される。
「自店の強み、顧客のニーズを考え、逸品として表現していくことで品ぞろえはもちろん、店自体が変わり、店主や売場に立つ人の意識が変わる。逸品は商人に意識改革をもたらします」と、一店逸品運動協会理事長の太田巳津彦さんは語る。
逸品のヒントはお客様の声にある
北九州市の「小倉逸品屋フェア実行委員会」では、14年間にわたって一店逸品運動に取り組んでいるセレクトショップを経営する清水悠治さんは、小倉逸品屋に参加して11年。逸品に取り組むことで「以前にも増して、共に店を運営する妻やスタッフたちの声を聞くようになりました。逸品とは私自身が〝これだ〟とお客さまにおすすめできるものであることはもちろんですが、最終的には〝お客さまのためになるもの〟であることが大切だと思うようになりました」と、自らの変化を語る。
「普段から店頭に立って、お客さまと直接コミュニケーションを取る彼女たちの一言に逸品のヒントがありますから、どんな小さなことでも積極的に耳を傾け、相談するようにしています」という清水さんがある年に選んだ逸品がハンガーだった。通常のハンガーは滑りやすい素材で衣類が掛けにくく、厚みがあるため収納スペースで幅をとってしまうというお客の不満の声を清水さんは丁寧にすくい上げた。逸品として選んだ細身で場所をとらない滑り止め付きハンガーは、お客のニーズを捉え、瞬く間にヒット商品になった。
目指すゴールを最初に掲げる
また、実行委員長として清水さんは、逸品に取り組む仲間とのコミュニケーションを積極的に図る。例えば、長く取り組んでいると、どうしてもメンバー同士で〝なあなあ〟の空気感が生まれてしまいがちだが、「逸品を通して何をしたいか」を仲間同士で発表し合うことで、一店逸品運動の本質を共有している。「最初に目指すゴールをしっかりと掲げる。そうすることで達成のためにはどうすればいいかと思考や行動の幅が広がります。また、みんなと共有していますから、緊張感もある。自分では予想していなかった反応、考えつかなかったアイデアが飛び出してくるのが逸品の魅力。気兼ねなく話し合える関係性にありがたさを感じています」
毎年、逸品を掲載した冊子を発行。それぞれの逸品に添えられたユニークなキャッチコピーの数々も、メンバー一人一人の熱意が集まって磨かれたコピーである。「一店逸品運動は、自分の熱意一つで成果の行方が大きく変わります。私自身、この約10年の中で逸品への挑戦を続けてきたからこそ、商いに生かせる学びを得られました」と清水さんが言うとおり、どんな事業も熱意一つで成果は大きく変わる。その根本には「明確な目的」「当事者としての熱意」「継続力」「共に知恵を分 かち合う仲間」という四つが欠かせない。逆に、どんなに精緻な事業も手段に過ぎず、事業自体が目的になってしまったとき成果は遠のく。やるべきことを絞り込み、一意専心に取り組むことが小さき者の繁盛の道である。
(商い未来研究所・笹井清範)
最新号を紙面で読める!