2011年3月11日に起きた東日本大震災から12年の歳月がたった。課題が残るものの、東北各地の被災地では順調に復興が進んでいるように見える。地域一体となって取り組みを進め、被災地の完全復興へ加速度を上げている東北各地の"元気企業"を紹介する。
「自社一貫生産」にこだわりコラボ事業にも果敢にチャレンジ
染物ひと筋に100年以上の歴史を持つ京屋染物店。東日本大震災発生後、日本全国が自粛ムードに包まれ、同社の柱である祭り関連用品の受注はゼロになった。一時は事業を畳むことを考えるも、「自社一貫生産」にこだわり、新規事業を立ち上げ、業績を回復。現在、地域文化を発信する拠点をつくり、まちの活性化につなげようと取り組んでいる。
被災した地域こそ祭りが必要と再認識
京屋染物店は、半纏や法被、手ぬぐいなど祭り関連用品を、デザインから染め、縫製まで一貫して行う、「自社一貫生産」にこだわりを持つ全国でも数少ない染工場だ。1918年の創業以来、お客さまの要望に合わせてつくる受注生産を基本とし、多くの顧客を抱えている。
同社の四代目、蜂谷悠介さんは、先代の逝去を受けて32歳で家業を引き継いだ。その9カ月後、東日本大震災に見舞われる。激しい揺れで鉄筋の工場の屋根が崩れ、機材や染型も一部が壊れて復旧に時間がかかった。しかし、それよりこたえたのは、日本全国が自粛ムードで祭りが中止となり、注文が全てキャンセルになったことだ。
「被災していない地域の祭りも中止になり、一瞬で仕事がなくなりました。今だから言えますが、染物屋は世の中に必要とされていない存在だったのかと自暴自棄になり、このままつぶれるなら、それでもいいと思っていました」と蜂谷さんは苦笑いする。
時間ができたため、親戚の住む陸前高田市へ復興支援ボランティアに参加した際、同市にある古刹の裏で野宿をしている男性グループと出会う。その1人が自分の宝物だと言って、1枚のボロボロになった半纏を見せてくれた。津波に家ごと流されて、ようやく探し当てたのだという。
「その人から『被災した俺たちは1日も早く祭りがしたいと思っている。あんたは祭りを支える染物屋なんだから、頑張ってくれよ』と逆に励まされ、ガツンと頭を殴られた気がしました」
家業に戻った蜂谷さんは、福島、宮城、岩手にある60以上の祭り団体に、半纏などの衣装を復元して寄贈して回った。すると寄贈先から感謝の手紙が届いたり、店まで踊りを披露しに来てくれたり、請求書も出していないのにお金を持って来てくれるなど、自分たちの仕事の意義を再認識することになった。
震災後に法人化新規事業にも挑戦
2013年、同社は法人化に踏み切る。三代続いた家内工業の形態から、会社組織にして新たに人を採用し、地域に貢献したいと考えたのだ。
新規事業にも挑戦し始める。例えば、アウトドアメーカー・スノーピークとコラボレーションした「LOCAL WEAR IWATE」もその一つだ。スノーピークは「その土地を着る」をコンセプトに、日本各地のその土地ならではの風土や技法を生かしたアパレル製品づくりを展開している。その取り組みで伝統的な祭り衣装の型をベースにデザインした法被や半纏、腹掛けなどが誕生した。また、海外にも着目し、パリのブランドとコラボしてジャケットやスニーカーなども製作した。
「スノーピークさんは製品づくりだけでなく、ウエアが生まれた土地や文化を体験する『ローカルウエアツーリズム』にも取り組んでいます。その一環として当社の工場で染物体験をしたり、郷土芸能や地元の食を堪能するツアーを行ったりするなど、今でもお付き合いが続いています」
こうしたコラボ事業を通じて、蜂谷さんは人とつながることの大切さを実感し、18年から「オープンファクトリー五感市」を仲間たちと立ち上げた。南部鉄器や秀衡塗(ひでひらぬり)など、普段はあまり交流のない伝統工芸や手工芸の事業所が一堂に会し、その魅力を消費者に発信して地場産業の活性化を目指すイベントだ。さらに、ここでつながった各事業所の製品をセレクトして販売するECサイト「en・nichi-縁日」もスタートした。
コロナ禍を機に長年の構想実現に着手
震災以降、同社は主力の受注生産事業と並行して新たな取り組みを推進してきた。そこへコロナ禍となり、再び全国の祭りが自粛に追い込まれた。しかし、蜂谷さんはチャンスと捉えた。
「実は震災後から、地域文化を体感できる場所をつくりたいという漠然とした思いがありました。郷土芸能を披露したり、ワークショップやイベントを開催したり、物販やジビエ料理の提供を行ったり。コロナ禍で受注がなくなったことで、今が実行するタイミングだと背中を押された気がしたんです」
現在、地元の人の厚意で里山をほぼ無償で借り、そこに建つ古民家を地域文化の発信基地としてリノベーションしているところだ。
また、この機会にコロナ前から取り組んでいた自社開発商品のオンライン販売も強化した。同社の商品は、地域の伝統的な衣服を現代風にアレンジしているのが特徴で、擦れやすい部分にあらかじめ当て布をした「山シャツ」や、東北地方で長年着用されてきた野良着をモチーフにした「さっぱかま(猿袴)」などがある。特に人気のさっぱかまは、機能性とファッション性を兼ね備え、グッドデザイン賞を受賞している。
「おかげさまで売り上げは伸びています。企業がしっかり収益を上げる事業を展開し、人を雇用して地域に還元する。そういう循環をつくって、まちをもっと元気にしたい」と蜂谷さんは晴れやかに語った。
会社データ
社名 : 株式会社 京屋染物店
所在地 : 岩手県一関市大手町7-28
電話 : 0191-23-5161
HP : https://kyo-ya.net/
代表者 : 蜂谷悠介 代表取締役
従業員 : 13人
【一関商工会議所】
※月刊石垣2023年3月号に掲載された記事です。
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