1706年に廻船問屋で創業した横田屋本店。生産量も国内消費量も漸減傾向の続くノリ業界の現状を打開する起爆剤として、同社が2022年4月に発売したのが「おさかなずかんのり」だ。開発当初は需要が予測できず、小ロットで販売を開始したが、ふたを開けてみれば2日で完売するほどの人気を博している。
子どもの頃からノリに親しむ状況をつくりたい
ノリは、日本人の食卓になじみの深い食品だ。その歴史は古く、日本で最初の法律書である「大宝律令」(701年)で、朝廷への税金の一つに海藻類が挙げられており、中でもノリは高級品と位置付けられていた。以降も長らく貴族の口にしか入らない貴重品だったが、江戸時代に東京湾でノリの養殖が始まり、次第に庶民にも親しまれるようになった。
そんな流れの中、1706年に気仙沼で海産物を扱い始め、300年以上の歴史を歩んできたのが横田屋本店だ。ノリを中心とする食品製造や卸売り・小売りを行ってきた同社だが、ここ20年ほど日本全体のノリの生産量は減少傾向が続いており、2021年にはピーク時の半分近くまで落ち込んでいる。
さらにライフスタイルの変化により消費量も減少している。かつて大きな割合を占めていた中元・歳暮などの贈答品や仏事の返礼品などの需要は減っており、近年ではノリが使われていないコンビニおにぎりも増えている。消費者のノリ離れが進行しているのだ。
そんな状況を打開する起爆剤になればと、同社が企画・発売したのが「おさかなずかんのり」である。
「これは子どもに食べてほしいという思いを込めてつくった商品です。というのも、子どもの頃においしいと感じた味は舌が記憶して、それ以降も食べる習慣がつきやすくなります。そんな一品になればと考案しました」と、開発担当者である同社営業部課長の猪狩伸忠さんは説明する。
おいしく食べながら気仙沼の特産品を勉強できる
同商品は、イラストと文字がプリントされている8切サイズの焼きのりだ。ちなみに8切とは、巻きずし用の板のり(縦約21㎝×横19㎝)を8分の1にカットした大きさである。商品開発に当たって、猪狩さんは地元のビジネスサポートセンター・気仙沼ビズに新商品企画を相談し、内容を詰めていったという。
「子どもに興味を持ってもらえるように、当初からノリにプリントすることを考えていました。最初はトランプ柄など遊び心のある図案を考えましたが、せっかくなら楽しく勉強しながら食べてもらいたいと、気仙沼で水揚げされる魚介とその豆知識を描くアイデアが浮かびました」
その結果、気仙沼の特産品であるカキ、ホヤ、メカジキ、マンボウ、カツオ、ヨシキリザメの6種類をピックアップした。豆知識はできるだけ短く平易な文章にまとめ、イラストは気仙沼ビズのセンター長が描いた。
「私がメインで担当したのは、ノリ選びです。ノリは品質によって等級が細かく分かれていますが、黒が濃くて光沢のある等級の高いノリは意外とプリントしにくいんです。また、パリパリしたノリだと割れやすいし、薄くて穴が開いているものも適していません。そうしたそれぞれの特徴を踏まえながら原料を決めていきました」
その後の工程は、完全に乾いていない状態のノリを、「プリント海苔」の特許を持つ加工メーカーに送り、図案をプリント後に焼いてカットして、袋詰めするという流れだ。製作はスムーズに進み、商品名は「おさかなずかんのり」に決定。22年4月に、同社本店や直営店、オンラインショップで発売することになった。
初回生産分がわずか2日で完売する予想外の反響
発売を前に、猪狩さんは各マスコミにプレスリリースを送り、子ども向けのワークショップを開催するなどPRに努めた。しかし、正直に言えば自信はなかったそうだ。
「店舗に買いに来るお客さまは年配層が中心で、ほとんどが決まった商品を買って行きます。こうしたキャラクター的な商品をこれまでに扱ったことがなかったので、どれくらい売れるか全く読めませんでした。そこで初回生産は200袋だけにし、売り切れれば良しとしました」
しかし、予想は外れた。商品の紹介記事が朝日新聞デジタルに掲載され、同新聞公式ツイッターに同商品を使ったお弁当の写真が投稿されると、たちまち注目を集めた。全国ネットのテレビ番組や地方新聞などから取材依頼が舞い込んで露出が増え、ふたを開ければ発売後わずか2日で完売した。
「年配のお客さまが『孫に』と言いながら20袋のまとめ買いや、それまであまり来店したことがないような子ども連れのお母さん がたくさん買いに来てくれたのは意外でした。こういうニーズがあると分かったことは大きな収穫です」
慌てて増産をかけた同社だが、オンラインショップの注文が急増したため、しばらくは需要に追い付かない状況が続いた。生産が追い付くようになってからは落ち着いてきたものの、累計販売数は当初の予想をはるかに上回る2万袋に迫る。常連客からは「第2弾はまだ?」と聞かれると言う。
「新規客の獲得という意味でも大成功でした。ノリ文化を絶やさないためには、生産者全体がもうかる仕組みをつくることが大切です。今後もノリ業界の起爆剤となるような新規企画を考えていきたい」と将来、同社十三代目を継ぐ予定の猪狩さんは、その意気込みを穏やかに語った。
会社データ
社名 : 株式会社横田屋本店(よこたやほんてん)
所在地 : 宮城県気仙沼市八日町1-4-8
電話 : 0226-22-0175
HP : https://www.yokotayahonten.com/
代表者 : 猪狩儀一 代表取締役社長
設立 : 1917年
従業員 : 90人
【気仙沼商工会議所】
※月刊石垣2023年3月号に掲載された記事です。
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