サッカー選手の本田圭佑氏が、近畿大学の卒業式で、今年巣立つ若人にこう語りかけた。「自分の夢を叶えたいのであれば、自身の環境にこだわれ」と。どんなに一人で頑張ったところで環境に恵まれなければ個人の努力は報われない。逆に環 境に恵まれれば、環境が夢を叶えてくれるという。
▼環境の重要性は日本社会にも当てはまる。バブル崩壊後30年となる日本。その間、企業で働いた人々の頑張りは、その分、実を結んだのだろうか。過去の「精算」を優先せざるを得ない状況は、一人一人の夢を叶えるのにふさわしい環境とはいえなかったはずだ。解雇や希望退職で職を離れる人や、コスト削減に注力しリスクを避ける慎重な経営方針の下で最善を尽くした人。日本経済の底割れを防ぎ、曲がりなりにも先進国の地位を保っているのも、こうした人々の努力があったからこそだ。しかし、今も好景気とはいえないのは、環境に阻まれ、自分たちの意思が十分に結実できていないからともいえる。
▼米国の起業率が高いのは、夢を実現させるエコシステムがあるためだ。日本にも「夢を叶える環境」をつくるという発想が必要だ。起業に限らず、人生の転機に成功や失敗の体験談を聞く機会が身近にあり、次の行動に必要な技術や知識を容易に会得できる場が第一。そして、さまざまな人と意見を交わし、助言や支援が得られる仕組みをつくる。さらに、失敗しても生活に困らないよう公的支援を整える。また、人々の声を吸い上げニーズに対応することも不可欠だ。夢を実現させるこれら一連のシステムは、地域、企業、大学、団体組織、自治体が協力することで形成できる。もっと夢を叶える環境へのこ だわりを持つべきだ。
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)