長野市に3店舗を構えるヌボー生花店は、リモートワークとクラウドツールを組み合わせることで在宅勤務を可能にし、現場スタッフの業務軽減を実現した。これにより、「全国中小企業クラウド実践大賞2022全国大会」で「日本商工会議所会頭賞」を受賞した。女性社員が長く働き続けられる会社をつくることを目指す同社の取り組みを紹介する。
優秀な人材を確保するためリモートワークを導入
大学の情報学科を卒業し、SEとして働いていた山﨑年起さんが家業のヌボー生花店に入社したのは2006年だった。 「当時は(経理業務などは別にして)店舗のほとんどの業務に紙が使われていました」と振り返る。
そんな状況を大きく変える出来事が起こった。15年、業務を回す司令塔のようなポジションにいた女性社員が結婚退職を申し出たのだ。同社は長野市にしか店舗がなく、女性社員は結婚して松本市に引っ越すことになり通勤ができなくなったという。
山﨑さんがIT導入に素早くかじを切れたのは、かねて社内の業務を分離して、パソコンがあればできる事務的な作業を切り出すことで、距離や時間に関係なく働ける環境づくりを模索していたためだ。なぜなら、「女性が多い(社員の9割)職場なので、結婚や出産を機に退職する人が多く、人材の確保に苦労していたからです。先輩たちが結婚・出産を機に辞める事例が多いと、後輩たちは働きたいと思っていても倣(なら)って辞めてしまう。そこで、通勤距離や働く時間帯、出産・育児といった制約を乗り越えて仕 事に復帰できる環境を用意して『働き続ける』という事例をつくり、社員に辞めないという選択肢を示したかった」
山﨑さんは二つのIT導入を決断した。リモートワーク環境の整備と、クラウドツールの導入だ。
結婚退職を申し出た女性社員には、ワークスペースや通信回線といったリモートワーク環境を整えるので続けてほしいと3カ月かけて説得した。クラウドツールは、左上の表にあるような業務ツールを会計・財務、給与・勤怠、労務……という順で導入していった。自社開発をせずに既存のクラウドツールを導入した理由を山﨑さんはこう説明する。
「前職の経験から自社用のオリジナルシステムを1からつくることは非常にリスクがあるし、お金もかかることが分かっていました。それに自社の業務のやり方に合ったシステムをつくることが目的ではなく、システムを使って業務効率を上げることが目的だから、クラウドツールに合わせて業務のやり方を変えればいい。(初期費用やランニングコストの低い)クラウドツールなら、うまくいかなくてもほかのツールに切り替えたり、やめたりできます。このことはIT導入を成功させる重要な点だと思います」
一方で、あえて紙を残した部分もある。例えば日報。「店長の意見なのですが、紙ならお客さまの声を覚えている間に書くことができる。パソコン入力にすると、パソコンを前にした時に思い出したことしか書けないというのです」。
リモートワーク社員は現在4人。松本市、長野市、石川県、そしてトルコ(在住の日本人)だ。花の注文は葬儀などで急に入ることも多い。日本とトルコは半日程度の時差があり、日本のスタッフが帰宅した後の注文を受けて、翌朝出勤した日本のスタッフに引き継げるという利点がある。
リモートワークを成功させる上で山﨑さんが肝に銘じていることは、「管理しすぎないこと」。成果を出してくれれば、一挙一動を管理する必要はないと言う。
やるべき仕事を定義すると社員が自律的に動ける
成果を出すために重要なことは、「その人ごとにやるべきことを詳細に定義すること」だ。やるべきことの進捗(しんちょく)は、クラウドのタスク管理ツール「Todoist」を使って、社員自身が管理できるようにした。新人であっても指示を待たずに自律的に動けるようになり、タスク管理ツールを見れば、誰が何をどこまでやっているのかが分かり、仕事が効率よく回るようになった。
「私も自分の仕事を全部書き出しました。すると、この仕事は社員と分担した方がいい、この仕事には時間をかけるべきだといったことが『見える化』され、仕事のやり方を見直すことができました」
社員も同じだ。特にマネジャークラスは本来の接客以外にも多くの仕事を抱え込みがちなので、それらは極力リモートワークチームが引き取って接客に専念できる環境をつくった。
接客サービス業は労働生産性が低く、賃金も高くはないというのが"定説"だが、山﨑さんはテクノロジーを使うことで生産性を向上させ、賃金に還元した。社員の22年の平均年収は15年比で1.2倍になったという。山﨑さんはITを活用して成果を出した。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・経理など一部を除きほとんど全ての業務が紙ベースだった
・結婚・出産を機に退職する女性社員が多かった
導入したITシステム
・各業務に合ったクラウドツールを導入。多機能なツールでも必要な機能だけを使うようにした
・Zoomなどによってオンラインミーティング環境を整えた
IT化後の状況
・優秀な社員がリモートワークで働くようになった
・現場は接客という本来の業務に集中できるようになった
・経営に必要な情報がリアルタイムでつかめるようになった
・22年の社員の平均年収が1.2倍(15年比)になった
会社データ
社名 : 株式会社ヌボー生花店
所在地 : 長野県長野市北尾張部715-7
電話 : 0120-878-718
HP : https://nubow.co.jp/
代表者 : 山﨑年起 代表取締役社長
従業員 : 社員13人、パート10人
【長野商工会議所】
※月刊石垣2023年4月号に掲載された記事です。
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