近年、ドライアイやドライマウス、乾燥肌などの「ドライシンドローム(乾燥症候群)」に悩まされる人が増えている。一般的に命に関わる症状ではないが、QOL(生活の質)を低下させ、ときには重篤な病気が隠れているケースもある。ドライシンドロームの正体を知って適切に対処し、湿度が低い日本の冬を快適に乗り切る知恵を福田千晶先生に聞いた。
福田 千晶
医学博士・健康科学アドバイザー
仕事のパフォーマンスにも影響を及ぼす
「ドライシンドローム(乾燥症候群)」という疾患に、あまりなじみがないかもしれません。これは体の分泌機能の低下による不快症状を総称したもので、ドライアイ、ドライマウス、ドライスキン(乾燥肌)、ドライノーズなどを指します。“乾き”から私たちの体を守っている涙、唾液、汗などの分泌物をつくり、放出している器官を分泌腺といいます。ドライシンドロームは、涙腺、唾液腺、汗腺などの働きが低下し、分泌量が減少したことで引き起こされます。
ドライシンドロームは、加齢、体質、ストレス、労働環境や住環境など、さまざまな要因が関係して起こりますが、それに拍車を掛けているのが湿度の低い日本の冬です。もし、「冬になると手足がカサカサしてかゆくなる」「パソコン作業をしていると目がシバシバしてつらい」「舌の表面がヒリヒリ痛い」「注意しているつもりなのに風邪を引きやすい」などの症状に思い当たる人は要注意です。毎年のことだと放置していると、年々症状が悪化する恐れがあります。
命を脅かすような症状ではありませんが、常に不快症状が続くためQOL(生活の質)が低下しますし、集中力を阻害するため仕事のパフォーマンスにも悪影響を及ぼしかねません。また、そうした不快症状の陰に、別の病気が潜んでいる可能性もあります。
そこでまずは、なぜ体の器官が乾くのか、乾くとどんな弊害が起こるのかをご紹介します。
ドライシンドロームの正体をチェック!
“乾き”の悪影響は体の広範囲に及びます。その原因と対処法をおさらいします。
CASE 1 ドライアイ 目の乾き
ドライアイは、涙の分泌量の減少などによって、目の表面の健康が損なわれる状態を指します。原因として、エアコンなどによる室内の乾燥、パソコン作業やスマホ画面の凝視によるまばたきの減少、コンタクトレンズの長時間装用などの外部要因のほか、アレルギー、花粉やハウスダストの影響なども挙げられます。
ドライアイになると、目がゴロゴロする、シバシバする、疲れやすい、目がかすむなどといった症状があらわれ、目の表面が傷つきやすくなります。簡単なチェック方法として、目を見開いたまま12秒間キープしてみましょう。もし、12秒たたずにまばたきしてしまった人は、自覚症状がなくてもドライアイの可能性が高いといえます。
日常的な対応策として、まずは涙の成分に近い、使いきりタイプの目薬をさして、目の表面の潤いを保つようにしましょう。
CASE 2 ドライマウス 口腔内の乾き
唾液の分泌量が減少することで、口の中が乾く状態を指します。加齢、ストレス、口呼吸、脱水、薬の副作用、唾液腺の病気など、さまざまな原因が考えられますが、これと特定できないことが多いものです。
ドライマウスになると、口の中がネバネバする、話しにくい、食べ物が飲み込みにくい、舌の表面が痛い(舌痛症)、味が分かりにくい、虫歯や歯周病のリスクが上がる、口臭が気になる、入れ歯の調子が悪くなるなどの不快症状があらわれやすくなります。ひどくなると気になるため、日常生活や仕事にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
日常的に口の乾きが気になっている人は、まずは水分を少しずつ口に含んで、口腔内を潤すように心掛けましょう。
ドライマウスと糖尿病
糖尿病になると高血糖の状態が続き、飲水量が増加し血液中の水分量が増えるため、トイレに行く回数も多くなる。その分体は脱水を起こしやすく、水分を欲するようになるため、喉の渇きを自覚しやすくなる。喉の渇き=糖尿病とは限らないが、極端に喉が渇くのでと受診してみたら、糖尿病と診断されるというケースもある。喉の渇きも体が発信したサイン。このような状態が続くようなら受診しよう。
CASE 3 ドライスキン 乾燥肌
皮膚の水分や皮脂量が不足して、肌がカサカサした状態になるのがドライスキンです。特に湿度の低い冬は皮膚の水分が奪われてバリア機能が低下し、肌荒れやかゆみなどを引き起こしやすくなります。ほかにも、加齢、アトピー性皮膚炎、遺伝要因などにより、引き起こされることもあります。
乾燥肌というと女性に多いイメージがありますが、男性はスキンケアに無頓着なことが多く、悪化させてしまうことが少なくありません。また、屋外の仕事に従事している人、段ボールなどの紙製品を扱う人、乾燥した環境で長時間過ごす人などは、知らず知らずのうちに水分が奪われてしまいます。指先がカサカサしている、ヒジやヒザが粉をふいているという人は、自覚症状がなくてもスキンローションやボディクリームなどを使って保湿するよう心掛けましょう。
CASE 4 ドライノーズ 鼻腔の乾き
鼻腔内を覆っている粘膜が乾燥する状態をドライノーズといいます。冬場の低湿度に加え、気密性の高いオフィスやマンション、ホテルなどで長時間過ごしていると、鼻の中も乾きやすくなります。また、アレルギー薬を使用している場合も、乾きやすいことがわかっています。もし、鼻の中がカサカサ、ムズムズ、ピリピリしていたり、鼻水は出ないのに鼻をかみたくなったりするようなときは、ドライノーズを疑いましょう。
この状態が続くと怖いのが、インフルエンザや風邪など感染症です。鼻の粘膜が潤っていれば、細菌やウイルスをキャッチして、体内への侵入を阻止してくれますが、それが働かないと呼吸とともに“出入り自由”になってしまいます。
ドライノーズの自覚がある場合は、マスクを使うと適度な保湿になって効果的です。また、入浴時に湯船にゆったりと漬かると、湯気で鼻腔内を潤すことにつながるのでおすすめです。
ドライシンドロームとストレス
人間はストレスを感じたり、緊張すると、交感神経が優位になって分泌腺の活動が抑制される。例えば、大事なプレゼンや商談を控えていたり、締め切りが迫っていたりするようなとき、涙や唾液が出てくるのは不都合なので、分泌を抑えて体を戦闘モードにするわけだ。したがって、慢性的にストレスを抱えていたり、仕事で緊張する場面が多い人は、目、鼻、口、皮膚など、さまざまな器官が乾燥しやすいといえる。
CASE 5 かくれ脱水
夏場は暑さで汗をたくさんかくので、脱水症予防を心掛ける人が増えてきました。ところが、冬でも脱水は起こります。外気は冷たくても屋内は温かいので汗をかいており、喉が渇いた自覚も乏しいため、水分補給を怠りがち。その上、野菜など水分を豊富に含む食べ物の摂取量が少ないと、体が水分不足を起こしやすくなります。また、意外なところでは、寒いトイレに行くのが億劫(おっくう)だからと、水分を控える傾向がある人も要注意といえるでしょう。
もし、飲み物を見て「おいしそう」「飲みたい」と思うときは、体が水分を欲していると考えて、飲む習慣をつけるといいでしょう。また、食べ物にも水分が含まれています。天丼やカツ丼などの単品メニューより、ご飯+汁物+おかず+野菜のような品数の多い定食を選ぶと、その分水分補給になります。
ドライシンドロームとシェーグレン症候群
季節に関係なく日ごろからドライアイやドライマウスの症状を強く感じている場合、その陰にシェーグレン症候群が隠れている場合がある。シェーグレン症候群は自己免疫疾患で、はっきりとした原因はわかっていないが、涙腺や唾液腺などの分泌腺が破壊されたり、疲れやすい、関節が痛いなどの全身症状があらわれたりする病気だ。女性に多いのが特徴だが、もし気になるような場合は一度病院を受診しよう。
“乾き”に負けない 潤い対策プロジェクト
カサカサ、ムズムズ、ピリピリ……。日常的にそんな自覚があるなら、それは相当体が乾いている証拠だ。ただでさえ寒さが心身にストレスをかける冬。少しの心掛けで余計な不快症状を遠ざけ、潤いある毎日を過ごそう!
監修/福田千晶
潤いUP編
Project1 湿度40~60%を保とう
湿度計を設置して、正確な湿度を把握する習慣をつけよう。特にオフィスビルなどでは、全館の空調をコントロールしていても、階数や部屋によって湿度は大きく変わる。職場環境によって適性湿度は変わるが、生活する上で快適とされる40~60%を保つように配慮しよう。
Project2 加湿は2段構えで
広いオフィスの湿度を快適ゾーンに保つには、加湿器の導入が有効だ。ただ、それで全体が均等に加湿されるとは限らない。そこで自然気化式の加湿器をデスクに置いたり、霧吹きを用意してたまにシュッシュとかけたりするなど、“部屋全体”+“身の回り”の2段構えで加湿してみよう。
Project3 外気に触れる部分は保湿
年齢とともに体内の水分保持量は低下し、乾燥しやすくなる。そこで体表から水分を逃がさない心掛けも大切だ。外気に触れる顔、首、手足などは、スキンローションやボディクリーム、ハンドクリームなどを塗って、バリアをつくっておくようにしよう。
エクササイズ編
Project4 目の乾きを緩和する“眼筋ストレッチ”
何かに集中しているときほど、まばたきの回数が減り、目が乾きやすくなる。そこで1時間に1回、10~15分ほど休憩をとり、眼筋ストレッチを行おう。目の周りの筋肉をほぐすと涙腺の働きも活性化し、目のリフレッシュになる。
Project5 唾液の分泌を促す
“唾液腺マッサージ”唾液には、口の中の乾きを和らげるだけでなく、口の中を清潔に保つ、虫歯や歯周病を予防する、感染症を防ぐなどの効果がある。唾液腺をマッサージすると、唾液の分泌を促すことができる。
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