今年3月、米国でシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破綻し、経営が行き詰まったスイス金融大手クレディ・スイスはUBSに救済買収された。一連の銀行の破綻は、2008年9月のリーマンショックの再現とみる向きは多かった。しかし、その後、ひとまず金融市場は落ち着きを取り戻しており、今後すぐにリーマンショックのような経済・金融市場の混乱が発生するとの見方は後退しているようだ。
今回の一連の銀行破綻の主たる要因は、個々の銀行がITスタートアップ企業や暗号資産などの分野で過度のリスクをとったことと見られる。一方、リーマンショックのケースは、米国などの不動産バブルが崩壊し、世界的に資産価格が急落する中で金融機関の信用力への懸念が高まったことで発生した。今回の銀行破綻とリーマンショックには、やや異なった背景があった。また今回、主要国の対応は迅速だった。そのため、今すぐに大規模な金融システム不安につながるとは考えづらい。ただ、資産価格の不安定化による金融機関などを取り巻く環境は大きく変わっていない。今後、金融引き締めの継続や、世界的な景気後退リスクの高まりなどによって、事業継続が困難になる銀行や投資ファンドなどが増える可能性はある。一連の銀行破綻はその予兆となる可能性もあるだろう。
00年台の前半、米国などでは不動産バブルが発生し、住宅や株式などの資産価格は上昇。景気は過熱した。サブプライム層向けの住宅ローンなどを裏付けにした証券化ビジネスの急成長により、リーマンなど投資銀行ビジネスは急拡大した。しかし、右肩上がりの経済・金融市場環境が永久に続くことはない。その後、金融引き締めなどによって05年半ば以降、米国の住宅価格は下落し、証券化商品の価値も急落した。07年8月、証券化商品の価格急落によって、仏大手金融機関BNPパリバ傘下の投資ファンドが顧客の解約請求に対応できなくなった。いわゆる"パリバショック"だ。それ以降、米欧などで金融機関の業績は急速に悪化し、信用収縮が発生した。08年の年初以降は米国の金融機関において取引先企業の信用リスクが急速に高まり、リーマンショックが現実のものになった。
一方、今年3月の一連の破綻の主要因は、個別行の資金運用の失敗がある。クレディ・スイスは、富裕層(個人)の金融資産の運用を行うファンドや、フィンテックなどIT先端分野の企業向けのビジネスを強化した。その分野での過剰なリスクが、最終的に同行の致命傷となった。シリコンバレー銀行は、IT関連企業に対する積極的な投資が過大な重荷となった。シグネチャー銀行のケースでは、暗号資産取引に関するリスクが過大となった。
3月に破綻した銀行と、パリバショックには共通点がある。超低金利環境の継続期待、住宅バブルやIT先端企業に対する強気心理の高まりだ。過度な楽観は過度なリスクテイクへと導いた。その結果、金利上昇などでバランスシート上の資産価額が下落し、事業は行き詰まった。足元で、大手投資ファンドなどは不動産ファンドの解約を制限している。顧客は、必要な資金を自由に引き出すことが難しい。流動性の低い不動産、ローン、未公開株などから資金を引き出し、財産の価値を守ろうとする主要投資家はさらに増えるだろう。そうなると、欧米の金融機関にも負の影響が及ぶ。
もう一つ重要なポイントは、リーマンショック時と異なり、現在は世界的にインフレ圧力が存在することだ。FRB、ECB関係者の一部は、「予想以上の利上げが必要になるかもしれない」と警告を発している。一方、主要投資家は過去の超低金利環境の記憶が強く、金融引き締め長期化のリスクを軽視しているように見える。足元で、いったん欧米金融機関の経営不安は落ち着きつつあるが、先行きはむしろ楽観できない。金融専門家の間では、規制の厳しい金融機関よりも、規制の緩い商業用不動産ファンドなどのリスクが高いとの指摘もある。
(4月9日執筆)
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