個人経営のカフェの廃業率は高く、3年持つ店は半数程度ともいわれている。そんな中、個人経営でありながらも地域一番の繁盛店となっている店が茨城県ひたちなか市にある。1969年に事業開始以来、熱いファンを生み出し続けているサザコーヒーである。
JR常磐線の勝田駅から住宅街を7分ほど歩くと、どこからともなくコーヒーのかぐわしい香りが漂ってくる。創業本店のカフェスペースは、木とコンクリートが調和したモダンな空間で、ゆったりと配置されたテーブルに、座り心地の良い椅子が並べられている。客席からは中庭が望め、季節折々の風景が空間に彩りを添える。天気の良い日には、テラス席でコーヒーを楽しめる。
同店では、お客の注文を受けてから豆をひき、一杯ずつ提供する。大手チェーン店と比べても、決して安い価格ではない。それでも、店内は満席に近く客足は絶えない。平日の平均客数は200人、土・日には400人にも及ぶ。
生産に取り組み本物の味を追求
「良質の豆からしか、良質のコーヒーは出来上がりません」と語る創業者の鈴木誉志男さんは、1998年に南米コロンビアに直営農場を開園。おいしいコーヒーを提供するためには、良質のコーヒー豆を育て、選び、焙煎や抽出までを一貫して行う必要があると考えたからだ。
しかし、大手企業でこそ自社農園を所有していたが、個人経営の店では大変珍しく、苦労は絶えなかった。土壌や品種にこだわり、減農薬で栽培するため病害虫にも弱く、これまで全滅も幾度か経験してきた。そんな苦労が実ったのは2017年のこと。サザコーヒーの農園は、コロンビア・カウカ州の品評会で初優勝を果たした。
1969年に創業するまで、鈴木さんは父が経営していた映画館を継ぐつもりで、興行プロデューサーとして3年ほど働いていた。実家を継ぐために戻って来るも、映画産業は下火になっていた。そこで始めたのがサザコーヒーだ。
映画の興行には話題づくりは欠かせない。情報がうまく伝わればお客は集まることを学んでいた鈴木さんは、そのノウハウをカフェ経営にも生かした。まだ、コーヒー専門店そのものが珍しい時代だった。そこで、「コーヒーを売る」のではなく「コーヒーを楽しむ」ことを訴求する工夫をした。
たとえば月に数回、コーヒー教室を開催。店や公民館を会場に、コーヒーの歴史や文化、おいしい抽出方法などを伝える。コーヒー初心者から上級者までが楽しめて、内容が充実していると好評だ。年に4回のフリーペーパー「コーヒージャーナル」を発行し、配布する。海外視察で得たリアルな情報や、ゲストコラムなどが盛り込まれている。
現在では、茨城県内を中心に16店舗に拡大。工場と農場もそれぞれ2拠点ずつ運営。「店舗が増えても大切にしているのは、おいしいコーヒーの提供と、落ち着きがあり品のある接客。マニュアルはあっても現場に合った教育が大切です」と、鈴木さんは商品の品質に加え、店舗の持つ〝場〟の力を重視している。
急速な拡大よりも確実な成長目指す
ほかにも出店依頼の声はかかっているそうだが、すぐには手を広げることはしないという。創業以来、売り上げを伸ばし続けているのは真摯(しんし)で堅実な姿勢のたまものだろう。「急速な拡張よりも、確実な成長をしながら、コーヒーの奥深い文化を伝えていきたいですね」という創業者の思いは、2020年に社長に就任した息子、太郎さんに引き継がれている。 (商い未来研究所・笹井清範)
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