コロナ禍を乗り越えて前へ踏み出す「Beyondコロナ」の時が来た! 国内外の社会・経済も活発化してきている。今や人の活動が積極化し、AI技術が加速するなど、社会全体が大きな変革期に入っているともいえる状況だ。そこで、コロナ禍の逆境もチャンスと捉え、一歩先を見据えた経営を進める地域企業の取り組みを紹介したい。
先を見据えた採用と人材教育でコロナ禍後の受注大幅増に対応
「モノづくりのまち」東大阪市で、excellent(エクセラント)は新幹線をはじめとする鉄道車両部品を製造している。本社工場を得意先の近くに移転し、機動力を強化。社員育成にも力を入れており、コロナ禍による受注減の中で社員教育を充実させ、労働環境を改善するだけでなく採用を増やすなど、コロナ禍後の受注増を見据えた取り組みを積極的に行っている。
社内交流を大切にすることで迅速な対応が可能に
鉄道車両用の部品を製造しているエクセラントは、大手鉄道車両メーカーの協力会社として、N700系など新幹線やJR、私鉄の在来線および海外の鉄道車両の部品を提供している。
「金属部品であれば材質を問わず、薄板から厚板まで一通りの加工に対応し、床下台車や内部の骨組み、屋根上、内装部品などを製造しています」と、同社社長の秋本倫宏さんは説明する。
同じ車種を数万台単位で生産する自動車とは異なり、鉄道車両の生産台数は100両あったら多い方で、しかも1両あたり数万点に及ぶ部品はそれぞれ形状が異なる。そのため、受注する部品は多品種少量生産になる。
「例えば新幹線などは、1車両に1個という部品も数多くあります。しかも、16両それぞれで形が全部違うこともあります。私どもでは設計から加工まで全工程を一貫して社内でできるので、図面1枚で発注いただければ、短期間で納品できるのが一番の強みです」
受注量が増えたために工場が手狭になり、2014年に得意先のすぐ隣に本社工場を新設。広さも以前の2倍になり、人員も増やしていった。そのため若い社員が増え、平均年齢も以前の40代後半から、現在は32歳になっている。
「若い社員が増えてきたので、会社としての考え方や価値観を共有して一致団結できる組織にするために、社員教育だけでなく社員旅行や社内行事などで社員同士のコミュニケーションも大切にしてきました。それが業務でも生かされ、得意先からの要求に迅速な対応ができる強みとなりました」
また、製造業の3Kのイメージを払拭するために、産学連携で近畿大学の協力を得て、食堂と男女更衣室をリニューアルし、作業着も新たにデザイン。若い人が働きやすい環境づくりに取り組んだ。
働きやすい職場環境を整え新たな取引先も開拓
しかしコロナ禍が国内外を覆い、鉄道事業者が全て赤字という状況となった。そのため新車両の製造だけでなく、車両の改造・更新やメンテナンスの需要が大幅に減り、同社では売り上げが約2割減となった。
「それだけでなく、弊社の特徴である業務以外の社内交流もできなくなり、コミュニケーション不足で生産性が下がってしまった面もありました。そこで、こういう時だからこそ若手社員の教育に力を入れ、社員一人一人のモチベーションの維持・向上を図るために、外部教育機関に依頼して、若手社員が月1回1時間集まり、仕事だけでなくさまざまな話題で会話する機会をつくるためのセッションを1年間続けました。また、定期的に行っていた食事会、BBQ、スポーツ観戦、社員旅行は中止しましたが、ノンアルコールでの社内飲み会は続けました」と、秋本さんは当時の苦労を語る。
また、リスクを分散させるため、そして2割落ちた売り上げを補うため、新たな事業として繊維関連の機械を製造する企業との取引も始めた。
さらに、働きやすい職場環境を整えるため、本社増築棟と近隣に新工場を開設。新工場には溶接部門が入り、以前より広い空間で作業ができるようにして生産性の向上につなげた。また、本社社屋も広く使えるようになったことで、屋内にジム設備、卓球台、バスケットボール、ゴルフ練習場ができ、現在では昼休みや終業後に利用する社員も多く、これまで以上にコミュニケーションを図れる場となっている。
厳しくとも新人を育成し数年後の受注増に備える
コロナとの共存に向けた現在、鉄道事業者は全て黒字となり、値上げによるサービス向上のため、バリアフリー化、省エネ車両への更新、観光列車など、車両更新の需要が高まっている。
「ただ、鉄道車両業界は受注から生産まで2~3年のタイムラグがあり、忙しくなるのは2~3年後です。それを見据え、今年は中途と新卒を10人前後採用し、新卒は一昨年2人、昨年3人、今年は5人をすでに採用しています。そして、仕事に余裕がある今のうちに新人を育成して、数年後の受注増に備えるとともに、残業の削減も目標にしています。これはコロナ禍があったからできたことだと思います」と秋本さんは言う。
同社の前身は、秋本さんの祖父が1955年に創業した木工所である。99年に秋本さんが入社すると、わずかなツテを頼りに鉄道車両用の金属部品加工を始め、小さな仕事でも誠心誠意対応し、どんな短期納品にも応えてきた。それにより取引先の信頼を得て、今に至っている。
「今のうちから設備投資と人材確保、社員育成をしていくことで、コロナ禍前の状態に完全に戻った際に、弊社の強みであるスピード感のある対応力を継続していきます。そして、これまで培ってきたノウハウと若者の知恵を生かし、弊社の夢の一つである自社製品の開発も実現させたい」と秋本さんは最後に力を込めて語った。
さまざまな産業で脱炭素が叫ばれる中、鉄道は環境負荷が低い輸送手段として再評価されている。同社は鉄道車両部品の製造会社として、コロナ禍後の一歩先だけでなく、二歩先、三歩先を見据えた経営を進めている。
会社データ
社名 : 株式會社excellent(エクセラント)
所在地 : 大阪府東大阪市稲田新町2-5-6
電話 : 06-4307-3785
HP : https://www.kk-excellent.co.jp/
代表者 : 秋本倫宏 代表取締役
従業員 : 約50人
【東大阪商工会議所】
※月刊石垣2023年7月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!