日本の少子化問題は長く指摘されていながら、なかなか思い切った対策を目にすることはなかった。「女性は子どもを産む機械」という政治家の失言に批判が集中し、政府がこの問題に取り組むことに及び腰になった面もあるだろう。異次元の対策を求めた岸田首相の指示を受けて、先の「骨太の方針」では児童手当の拡充などが打ち出された。女性活躍を推進する観点から、大手企業における女性役員登用の数値目標も示されている▼
財源論を含め賛否はあるが、一定の効果は期待できると思う。気になるのは女性自身の意見がどの程度反映されているかだ。育児休業制度の充実やマタニティハラスメントの抑止を進めても、妊娠・出産という生命のリスクもある大事業に臨むのは女性たち自身なのだ▼
オンラインピル診療サービスを展開しているmederi株式会社では、企業が費用の一部または全額を負担する法人契約が増えている。同社代表取締役の坂梨亜里咲さんによると、毎月の生理トラブルや月経前症候群(PMS)に苦しみ、仕事との両立に悩んだ末、離職するケースも少なくないという。「女性活躍」と「少子化対策」の二兎(にと)を追うには、女性のライフステージに合わせた対策を講じるだけは不十分だ。日々の体調ケアにまで細かな心配りをすることが、職場でも社会全体でも求められる▼
坂梨さんが指摘するように、出産・育児と仕事をうまくこなす女性のロールモデルが身近にいないため、出産に前向きになりにくい面もあろう。少子化問題が一気に解決するとは考えられない。時間がかかっても「子どもを産みたいな」と思う女性が増えるような社会を構築することが望まれる
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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