先日、われわれが実施したアンケート調査によると、多くの人が「家族」を信頼していることが明らかとなった。これは安堵する情報ではあるが、気になるのは経済的に恵まれた環境にいる人の方が家族を信頼する度合いが高かったことだ。つまり、家族に対する信頼の程度に経済的・社会的な格差が忍び込んで影響を与えていることになる▼
経済的・社会的な環境が影響を及ぼすのは「家族」への信頼だけではない。同じ調査からは、自分の周りにいる「たいていの人」をどの程度信頼するかという問いでも経済的・社会的に恵まれている人ほど信頼が厚くなることが分かった。そうでない人は周囲を頼りにする傾向が下がる▼
「信頼」がその人の経済社会的な環境によって左右されるのはなぜか。経済的に厳しい状況に置かれれば生活にゆとりがなくなり、心の余裕が失われる。そうなれば、長期的な人間関係である「信頼」を周囲の人との間に構築することは困難となるだろう。しかし、理由はそれだけではない。自分は恵まれていないという意識が社会制度への信頼を低下させ、それが人への不信を生んでしまう。例えば、家庭の事情で十分な教育を受けられなかった子どもが自分の状況は公的教育の不備によるものと考え、結果、人への信頼を失ってしまう場合だ▼
経済的・社会的な違いから生まれる信頼格差の問題をこのまま放置しておいてよいわけはない。一人一人の努力では乗り越えられない状況をつくり出している信頼格差の根底にある原因を突き止め、是正すべきだ。そして人に寄り添う多様化した支援に変えていく。困難な状況にある人が信頼できる制度をつくることこそ、目指すべき政策目標ではないか
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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