最初の社会をつくった初期人類が獲物を分かち合う際に大切にしたのは、公平や平等というルールだった。そうしないと組織の足並みが乱れ、争いの元になる。20世紀の「未開社会」(なんと上から目線の用語)が押しなべて公平を重んじることを発見したのは文化人類学の成果だった▼
一方で20世紀の社会は、人々の多様性を尊重することに意を注いできた。肌の色など生物学的な差異はあっても、むろん人種に優劣はない。いわれなき差別は人間の可能性を妨げ、多様であるべき社会の構築に反するだろう。米国は公平と多様性の両方を重んじる国だった▼
米国の連邦最高裁が6月、大学の入学者選抜をめぐり、人種だけを理由に志願者を優遇する手法を違憲とした。60年代に導入され、黒人や中南米系を優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を否定したのである▼
たった1点に泣くのが大学入試である。実力以外で合格するのは逆差別だと、保守派を中心に批判があった制度ではある。6人の保守派判事が3人のリベラル派を抑えての結論である。被告となったハーバード大は(人種などの)多様性に教育的効果があると主張したが届かなかった。今後は企業の採用などにも影響を及ぼすだろう▼
少し前、日本でも医学部入学で男性が優遇されていたことが分かった。実力主義こそ公平とする主張には説得力がある。連邦最高裁は事業者が同性カップル向けのサービスを拒否するのは「表現の自由」と認める判決も出している。これを推し進めれば寛容な多元主義が衰退する。少数民族の権利擁護のためのアファーマティブ・アクションの導入を後押ししたのも文化人類学の大きな成果だったことを付記する。
(コラムニスト・宇津井輝史)
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