共同生活援助事業(グループホーム)の運営など障がい福祉サービスを提供する相生は、紙とFAXが主流のアナログな現場をデジタル化し、ケアワーカーが入居者と向き合う時間を増やし、サービスの質の向上を実現した。その成果により、「全国中小企業クラウド実践大賞2022 近畿総合通信局長賞」を受賞した。
アナログ由来の課題をクラウドアプリで解決
福祉業界の現場業務は紙とFAXが多用されている。そういったアナログな方法での業務のやりとりにも利点はあると、相生代表の向井玄人さんは話す。 「訪問介護の忙しい現場では、かさばらず軽く持ち運べる紙の方が扱いやすいのです。だから介護記録は紙に書き、FAXで送るという流れができていて、変えてほしいという声は上がらなかった」
とはいえ介護の現場には、アナログ由来の五つの課題があった。 ①勤怠管理のために、本社の社員が全事業所を回ってケアワーカーのタイムカードを集めていた。 ②外出したケアワーカーは、タイムカードを押すために事業所に戻らなければならなかった。 ③勤務時間の計算と毎月の勤務予定作成を手作業で行うため、時間と手間が発生していた。 ④海外出身のケアワーカーは、日本語の日報作成に苦労していた。 ⑤コロナ禍の影響で会議や集合研修が開催できず、情報伝達が不十分だった。
これらの課題に対し「ITを導入することで間接業務の軽減と生産性の向上が生まれる。それは、社員のモチベーションとサービスの質を底上げし、会社の持続的な成長を促すことにつながる」と向井さんは考えた。だが、「ITの知識がなかった」ので、大阪商工会議所の経営指導員に相談し、同所の「IT・ビジネスアプリ導入サポートデスク」のコーディネーター・山下逸治さんに導入支援を依頼した。
アプリ導入の目標は「勤怠管理のクラウド化」「営業日報のクラウド化」「会議や研修のオンライン化」の3点だ。 「勤怠管理」については、出勤・シフト管理、休暇・申請管理などができるクラウド勤怠システム「ジョブカン」を使用。 「ケアワーカーのシフトは日勤と夜勤があるのですが、夜勤の場合は日をまたぐ打刻となるため2日間の勤務とカウントされてしまうという、修正作業が必要な場面もありました。しかし、稼働し始めると本社は、勤務時間の計算やタイムカード回収の手間を省くことができましたし、ケアワーカーは外出先で打刻ができるので事業所へ戻る負担が軽減されました。また、社内全員でシフトの情報共有ができるようになったのが大きな改善点です」 「営業日報」は、クラウド型業務アプリ開発プラットフォーム「kintone(キントーン)」を導入。利用者の声を社内で共有できるようになり、利用者対応の場面でケアワーカー同士の意思疎通がスムーズになった。日本語を書くことが苦手な外国人のケアワーカーは、日報の音声入力ができるようになり、不満の声がなくなった。一部スタッフの中には、「手書き文字の方が、書いた人の気持ちが込められているため温かみを感じられる」という人もいたが、導入したアプリは1回の入力で、日報や連絡簿に複写されるので、書き写す手間がなくなり、ケアワーカーが入居者と向き合う時間が増えるという利点となった。 「会議や研修」は、スタッフ間コミュニケーションを密にするため、オンラインミーティングアプリ「Zoom」を導入。とりわけコロナ感染に注意しなければならない介護の現場だけに、会議のオンライン化は「密」を避けることができ、コロナの感染拡大防止にも大いに役立った。また、ケアワーカー間の情報共有と定期的な研修で、コロナ禍でも安定したサービスを提供することができた。
シニアスタッフの拒否反応にOJTで対応
デジタル化の推進では、「シニアスタッフから拒否反応があった」と向井さんは言うが、それについては、デジタルが得意な若手スタッフがシニアスタッフに教えるOJT(職場研修)の仕組みをつくって対応することにした。「両者のコミュニケーションが増えたことで、シニアスタッフが若いスタッフの相談に乗る場面も増え、温かい現場になりました」。
同社のIT導入成功のポイントは、アドバイスを受けたことで、初期費用が抑えられる安価なクラウドサービスを利用できたこと、社内の抵抗や拒否反応に対しては、得られるメリットを提示して少しずつ導入し、抵抗感を薄めたことの二つだ。
次のIT導入の目標は、「病院になかなか行けない入居者さんのためにオンライン診療を受けることができる仕組みもつくりたい」と向井さん。スタッフだけでなく、入居者のためにも、今後さらにIT化を進めていきたい意向だ。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・全事業所を回ってタイムカードを収集
・外出時もタイムカードを押すため事業所に戻らなければならなかった
・勤務時間計算とシフト管理が手作業
・外国人のケアワーカーは、日本語で書く日報作成に苦労していた
・コロナ禍の影響で会議や集合研修が開催できなくなった
導入したITシステム
・クラウド勤怠システム「ジョブカン」
・クラウド型業務アプリ開発プラットフォーム「kintone」
・オンラインミーティングの「Zoom」
IT化後の状況
・課題が全て解決され、利用者と向き合う時間が増えた
・スタッフ間のコミュニケーションが密になり、サービスの質が向上した
会社データ
社 名 : 相生株式会社(あいおい)
所在地 : 大阪府大阪市住吉区苅田9-14-7 21コートマルナカ703
電 話 : 06-6697-7732
代表者 : 向井玄人 代表取締役
従業員 : 本社5人、ケアワーカー50人
【大阪商工会議所】
※月刊石垣2023年9月号に掲載された記事です。
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