今回の岸田内閣の組閣で、デジタル行財政改革の司令塔となるポストができた。このポストは、複数ある政府のデジタル政策を統括する役割を担うことになる。国は地方自治体のデジタル化を推進し、行政全体の効率化を図る決意だ。デジタル化の成功には「生活者目線」と「業務効率化」をいかに統合するかが鍵となる。マイナンバーカードの混乱に見るように、DX化には生活者目線が不可欠であることは言うまでもない。しかし、行政の効率化・費用削減のためには時に果敢な行動も必要となる▼
先日、新聞に興味深い記事があった。日本は、IT弱者に対して非常に優しい国だとの指摘だ。デジタル化が進んでもデジタルを使えない弱者に配慮し、昔ながらの仕組みを残すため、結果的にIT化を遅らせることになるという。二つの社会インフラが必要となればコストが高くなり、また、遅れた仕組みが残る事態となってしまう。この指摘をしたのは「日本にネットをつくった男」として知られるインターネットイニシアティブ(IIJ)会長の鈴木幸一氏だ▼
例えば、JR東日本が交通系カードのSuicaを導入したのが2001年。既に20年以上経過するが、紙の切符はなくなっていない。いまだに切符での乗車が可能で、専用の自動改札もある。そのためインフラ整備に余計な費用がかかっている。これでは、利用者の選択肢は増えるが、社会が業務効率の成果を実感することにはならない。切符での乗車を相応に割高にして切符の利用を控えてもらうことも一案だ。利用者へのサポートは必要だが、遅れた仕組みの温存にエネルギーを割くのではなく、市民や消費者の行動を変える工夫に一層注力すべきだ
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)
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