地層は地球史のいろいろなドラマを教えてくれる。アメリカの研究者らが、中生代の白亜紀末と第三紀初期の間の地層に、地表付近には稀なイリジウムが多量に含まれることを発見したのは1979年のことだった。巨大隕石の衝突という事変を地層がくっきりと示し、恐竜絶滅の原因解明につながった▼
46億年の地球史を地層の特徴で分類したものが地質時代である。いまは新生代第四紀完新世。氷河期が終わる1万1千余年前に始まり、多様な生物相を育んできた。だが18世紀以後、人間が化石燃料を大量に消費する。20世紀の半ばからは盛んに核実験を行った。森林を伐採し都市文明を創ってきた。それらの活動が気候危機など修復困難なほど地球に負荷をかけた▼
私たち現生人類はたった20万年前に現れた新参者に過ぎない。いつの間にか支配者になった人間の活動が地層に影響を残す、新しい地質時代を「人新世(ひとしんせい)」と定義すべく国際地質科学連合(IUGS)が提案し、証拠となる場所にカナダの(地層が崩れにくい)湖を選んだ▼
コンクリートやプラスチックはいつまでも地中に残る。地質時代に定義されたからといって、それを誇らしく思ってはなるまい。大変動の原因はほかならぬ私たちヒトがつくった。来夏にも正式に承認される予定だが、疑義を持つ研究者も少なくない▼
一段と加速度を増す人類文明は、もしかしたら絶滅への道ではないのか。人類の爪痕が地球史の上で一時的な現象に過ぎないのなら、地質に命名すべきではないとの意見も頷ける。私たちはいま、絶滅した人類よりも桁違いに高度な文明を発展させた。だが同時に自らの足元を掘り崩している。地球は人類だけのものではない。
(コラムニスト・宇津井輝史)
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