主に空間プロデュースやイベント企画、ローカルパブリックリレーションズ(ローカルに特化したPRを提案する)などの事業で2019年に設立したOn-Co(オンコ)。同社が力を入れるサービス「さかさま不動産」が今、“空き家”を探す個人や自治体などから注目を集め、全国に広がりを見せている。
自らの経験がきっかけでサービスを思い付く
さかさまから見ると、景色はどう変わるのか―。その一例を見せてくれたのがOn-Coの運営する不動産WEBサイト「さかさま不動産」だ。従来は不動産会社が物件情報を提供し、借りたい人がその中から選ぶ。一方、さかさま不動産は借りたい人の情報を可視化し、大家が貸したい人を選んで契約する仕組みだ。利用において料金は一切発生しない。 「今、日本各地で空き家が増え続けていて、2040年には空き家率が43%になると試算されています(野村総合研究所)。しかし、空き家情報を公開している大家さんは、全体の15%程度しかいません。理由は『どうせ借り手はいない』と思っているからですが、もし、誰かいい人がいて有効活用してくれるなら、約半数は貸してもいいと考えています。そこに矛盾と課題を感じました」と同社社長の水谷岳史さんは、サービスを思い付いた経緯を説明する。
この仕組みは、水谷さん自身の経験に基づいている。11年に名古屋駅から徒歩圏内にあるボロボロの空き家を借り、自ら改装して住み始めた。2軒目を借りてシェアハウスにし、3軒目をレンタルスペースに。さらに古民家を借りて飲食店の運営を始め、徐々に地域の人に認知されるようになった。 「一時は半径1㎞圏内に8軒を15万円で借りて、多くの人が出入りするコミュニティみたいになっていました。すると、『どうやってここを見つけたの?』『どのように改装したの?』『ほかに借りたい人はいないかな』などあちこちから聞かれるようになり、なぜ僕のところにこんなに情報が集まってくるんだろうと。意図せず空き家の課題解決に意識が向くようになりました」
借りたい人の「やりたい思い」で大家は貸すかどうか判断
19年にクラウドファンディングで資金調達し、半年の準備期間を経て20年6月に「さかさま不動産」をスタートした。
大まかな流れはこうだ。まず、空き屋を借りたいという問い合わせが来たら、オンラインでインタビューを行い、空き家でやりたいことと、その思いをサイトに掲載する。大家から連絡が入ったら双方をつなぐ。契約となればマッチング事例としてプレスリリースを作成し、メディアにリーチする。さらに、必要に応じて人の紹介などもサポートしている。 「トライ&エラーを繰り返しながら現在の形に着地しました。最初はこの辺で安く借りたいと申し込んでくる人がいましたが、『それでは大家さんは貸してくれないよ』とアドバイスして、その人の思いを聞いていきます。例えば、単に餃子店をやりたいではなく、餃子愛に触れられる店をやりたいといったエモーショナルな物語を引き出して掲載するんです。不動産情報的にはおかしいけれど、『うちの空き家をそんなふうに使ってくれるなら貸してもいいな』と捉える貸し手が増えています」
同サービスのメリットは、大家は貸したい人に物件を貸すことができ、借り手は自分のやりたいことができる場所が見つかること。地縁がない場所でも、大家が「今度、こういう人が来るからよろしく」と前もってアナウンスしてくれるので、地域に溶け込みやすいのだ。サイトを始動後、3カ月で最初のマッチングが成立し、1日3件程度の問い合わせがあるという。メインユーザーは20~30代と若く、マッチングした借り手は全員事業者というのも特徴だ。事例を挙げれば、オーダーメードの自転車店、海洋プラスチックを使ったアート作品のアトリエ、いきものクッキー専門店、会員制私立図書館など、いずれも独創的だ。同社の新規創業や地域のにぎわい創出に寄与する取り組みが評価され、「第6回日経ソーシャルビジネスコンテスト(2022)」優秀賞や、「地域産業支援プログラム表彰事業(イノベーションネットアワード2023)」優秀賞を受賞している。
全国にネットワークを広げて社会課題の解決に貢献
同サイトには、行政や地域団体からの相談も多く寄せられており、22年に支局制度を開始した。全国のまちづくり団体と一緒に取り組むことで、人を呼び込み、地域の活性化につなげるのが目的だ。すでに全国で10以上の自治体に支局が開設され、現在進行中のところも数カ所ある。支局のネットワークが広がれば、大家と借り手の最適なマッチングが可能になる。
それにしても、同社はなぜこのサービスを無料で行っているのだろうか。 「従来の不動産仲介では解決しなかった空き家という社会課題は、さかさま不動産の仕組みを使えば柔軟に解決するのが強みです。空き家を通じて、僕らのところに集まったたくさんの情報や、いろいろな人との縁ができます。それは同時に、借り手と貸し手にさまざまなサポートができるということ。さかさま不動産の話をすると、どうやって利益を出しているのかと聞かれますが、この仕組みで寄せてもらった信頼は、当社が行う事業につながるのです。将来的には日本一の流通物件情報とネットワークを持つ会社になることが目標です。このやり方は変えず、社会課題の解決にも一役買っていくつもりですよ」と水谷さんはいたずらっぽく笑った。
会社データ
社 名 : 株式会社On-Co(オンコ)
所在地 : 三重県桑名市西別所1375
電 話 : 080-5984-7800
代表者 : 水谷岳史 代表取締役
設 立 : 2019年
従業員 : 6人
【桑名商工会議所】
※月刊石垣2023年10月号に掲載された記事です。
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