震災後、経営悪化に直面した宮城県塩竃市の文具店・高山(TAKAYAMA)は、取り扱っていた商品を活用し、社内のIT化を推進した。その過程で知見を深め、IT・DX企業へ転換。顧客の課題を的確に捉えるDX支援サービスを中核に据えた事業展開が注目され、「全国中小企業クラウド実践大賞2022北海道・東北大会審査員特別賞」を受賞した。
中小企業の目線でセキュリティー導入支援
1946年、文具店として出発した高山は、父の高山宏敏さん(現会長)から、現三代目社長の高山智壮(ともたけ)さんに事業承継した2022年、祖父の代から続いた文房具事業を廃止し、IT・DX企業へかじを切った。
家業を継ぐつもりがなかった高山さんに、13年冬、転機が訪れる。父から「戻って来てほしい」という要請を受けたのだ。14年、家業の決算書を見た高山さんは経営のピンチを悟り、入社を決意。文房具事業の将来性を危ぶみ、同年、新たにサイバーセキュリティー・ソリューション販売事業を立ち上げた。 「IT導入を目指す企業が入り口でつまずくのは、ITを提供する側が顧客の視点ではなく、自社の都合で商品やサービスを売ろうとするからです。当社は大企業でもITのプロでもなかったことが強みとなり、中小企業ならではの課題を自分事として捉え、サイバーセキュリティー分野のあらゆる選択肢を検証して、最適な商品を提案することができました」
この分野で、サイバーセキュリティー対策支援会社として成長を目指すが、20年、コロナ禍で業務が停滞する事態に見舞われる。だが、同社には震災を乗り越えた経験がある。高山さんは「ピンチをチャンスに変える」を合言葉に、三つの決断を行った。それは、①サイバーセキュリティー支援事業を伸ばす、②社内のデジタルシフトに向けたメンバーを組織し、人材輩出・企業変革を目指す、③デジタル化のノウハウを活用し、文房具事業から撤退、新規ビジネスに事業転換する―だった。 「3密を避けて業務や採用活動を続けるためには、オンラインという選択肢しかありません。これまでに得た見識を生かしてツールを選定し、テレワーク、デジタルマーケティング、クラウドERP(クラウド環境で活用できる統合基幹業務システム)を使用したバックオフィス業務を、社内で徹底活用してノウハウを蓄積していきました」
自社で導入・検証した商品・サービスを提供
20年3月に社員全員がテレワークに移行、翌月にオンライン採用を開始。その成功を弾みに、インターンなど、人材採用分野にもオンライン活用を拡大していった。すると、同社の入社希望者は19年比で500%以上アップしたという。そのノウハウを基にオンラインセールスへ領域を拡大。デジタルマーケティング分野の人材を採用して社内でデジタルマーケティングの仕組みを構築した。
具体的には、Webメディアなどさまざまな集客導線を通じて集めたリード情報(見込み顧客)を「Zoho(ゾーホー) One」というクラウド型業務管理システムのリード管理データベース(DB)に集約。HOTリード(案件化する可能性が高い顧客)に対しては電話やメールでのインサイドセールス、直接訪問して商談するフィールドセールスを行う。その成果を「kintone」上で一元化。商談管理DB、受注管理DBに蓄積する仕組みを完成させた。
次に紙が主流となっていた業務ワークフローを改善した。デジタル技術によって最終的に何を達成したいのか目標を明確にした「DXジャーニーマップ」を作成し、「マイクロソフト365」と「kintone」を土台にクラウド化に移行し、紙で行っていた稟議・承認を全てオンラインで完結する体制をつくり上げた。クラウド会計とクラウド証憑の導入で、経理もテレワークが可能になった。「その結果、経理・業務までが完全に見える化されて、抜本的な業務改革の意思決定ができるようになりました」と高山さん。
これらを組み合わせて運用したことにより、自社の生産性は123%アップ、1年間で新規案件問い合わせ件数が433%以上、求人応募も大幅に増えるという成果が得られたという。
また、ここで鍵となったのがセキュリティーの確保だ。高山さんは「ゼロトラスト」(社内外からシステムへアクセスする動きを一切信用せずに全て検証する考え方)に対応するため、これまで構築してきたセキュリティー基盤を生かし、テレワーク業務の社員をクラウドセキュリティーで守りながら、全てのログを見える化した。その結果、社員がどんな仕事をし、情報を扱っているのかが把握できるようになった。
同社の独自価値は、「自社に導入して得た知見を商品化、サービス化し、顧客の課題に対して、導入から運用まで親身になって解決へ導く『“絆”走支援』(絆を大切にして支援する伴走支援)を行うところ」にある。同社の支援を必要とする顧客は全国に広がっている。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・文房具店の成長性に疑問を感じていた。また会社経営の視点でも決算書などから将来性に疑念があった
導入したITシステム
・新事業を軌道に乗せるため、自社でテレワークや業務改善などさまざまなITツールを導入・利用・検証して、中堅・中小企業に合ったツールを取捨選択していった
・クラウド型の業務管理システム「Zoho One」でリード管理を行い、セールスの成果を「kintone」上のDBに蓄積するといったシステムを完成させた
IT化後の状況
・kintone導入で自社の生産性が123%アップした。Webでの集客・採用では集客1400%、求人応募2600%アップした。これらの知見を基にした商品・サービスを提供
会社データ
社 名 : 株式会社高山
所在地 : 宮城県塩竈市尾島町10番18号
電 話 : 022-362-3181
代表者 : 高山智壮 代表取締役
従業員 : 20人(パート含む)
【塩釜商工会議所】
※月刊石垣2023年11月号に掲載された記事です。
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