道東に位置する釧路市は、夏でも平均最高気温が約21度と少し肌寒い。そんな釧路の夏の風物詩は「ビアガーデン」ならぬ「ヒアガーデン」。逆転の発想でチャンスを生み出す釧路YEGのユニークな活動にスポットを当てる。
ヒアガーデンにカムヒア!
釧路市には、釧路湿原や阿寒湖など自然の観光資源が豊富にある。その一方で、水産業や炭鉱業など地域経済の衰退などにより、人口の流出傾向が続いている。これをまちの大きな問題として認識した釧路YEGが、中心市街地のにぎわい創出を目的に「第1回釧路すえひろヒアガーデン」を開催したのは、2012年のことだった。
ビアガーデンをもじって「ヒア(冷)ガーデン」。毛布やジャンパーなど防寒具を貸し出したり、地酒の熱燗を提供したりと、一般的なビアガーデンとは趣が異なる。冷涼な気候を逆手にとったオリジナリティーあふれるイベントは、夕方から午後8時までという開催時間の短さにもかかわらず、期間中14日間で2500人を動員するほどの人気を博した。
20年、21年は規模を縮小しつつも歩みを止めず毎年開催し続けてきたことで、釧路の文化として根付き、バスガイドの教本にも載るほどに成長したヒアガーデン。ピーク時には4300人以上が来場し、ビールの売り上げも500万円を超えた輝かしい事業は、11回目となる22年、変革の時を迎えた。
合言葉は「たのうまベイ」
変革を決めた当時を振り返り、23年度会長の吉田勝幸さんは、「初開催から10年の区切りとなった22年、釧路YEGのメンバーからは、『われわれは繁華街を盛り上げるためだけの活動をしていて良いのか』という疑問の声が上がりました。期間中のスタッフとしての負担の大きさから、開催自体に反対する声もありました。議論を重ねた結果、釧路の風土を生かし、まち全体を発展させたいとの思いで一丸となり、新たな構想のヒアガーデンが生まれました」と、経緯を語ってくれた。
新生ヒアガーデンは、開催場所を市街地の公園から釧路川リバーサイドへと移した。 「ここにある幣舞橋(ぬさまいばし)は、世界三大夕日が眺められる北海道三大名橋の一つで、釧路市街地のシンボルです。この釧路川沿いの『ベイエリア』で、人が集まる『たのしい』空間と、釧路の『うまい』食を提供する『たのうまベイ』を合言葉として、街全体ににぎわいを創出することが新しいヒアガーデンのコンセプトです。目指すのは『シビックプライドの醸成』。まちのシンボルをにぎわいの中心として活性化させ、リバーサイドの魅力を高めることで、釧路への愛着と誇りを持つ人をさらに増やしていきたいですね」とその狙いと抱負を語る。
新たな工夫として光るコースターを使ったり、会場付近のライトアップでおしゃれな空間を演出したりしたことによりSNSでの拡散され、若者の来場者を増やすことにつながった。また、ポップカルチャー業界で人気のイベント「釧路スタジオ」とコラボするなど、他の組織や団体とも連携しながら規模を広げており、将来的に1万人以上の来場者を目指している。
雰囲気のあるリバーサイドでまちに誇りを
その運営形態にも狙いがあるという。 「アルバイトを18人雇ったのですが、そのターゲットは帰省している学生です。事業の魅力に触れることが、将来Uターンのきっかけになればうれしいです。また、メンバーから実働業務を手離れさせることも意識しています。私たち経営者は頭で汗をかくのが仕事。この事業自体も、ゆくゆくは他の民間団体に引き継ぐことを考えています。実際に、19年から行っている冬のイベント『くしろウインターパーク』は来年から他団体の主催へと移行します。そうしてYEGはまた新たなコンテンツをつくる、この循環が理想の形だと考えています」と思いを話してくれた。
最後に釧路YEGの将来について、吉田会長が語ってくれた。 「人口が減少していく中で、釧路だけで商売をしていても限界があります。北海道全体を見回しながら、まちをどう活性化していくか。YEGの連携を利用し、大きなフィールドの中でこのことを考えられる人たちが育つことが、まちの発展につながると思っています」
市民へもメンバーへも願うのはシビックプライドを高めること。まちが輝くため、釧路YEGによる夕焼けのように赤い情熱的な活動と努力はまだまだ続く。
【釧路商工会議所青年部】
会 長 : 吉田勝幸
設 立 : 1994年
会員数 : 86人
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