Q いわゆる同一労働・同一賃金の観点から、アルバイトのボーナス(賞与)支給に関し、注意すべき点は何でしょうか。
A 正職員には賞与を支給し、アルバイト職員には不支給としていたことが問題となった学校法人大阪医科薬科大学事件について、最高裁判所の判決(2020年10月13日)では、賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価できるものとはいえないとの結論になりました。しかし、これは賞与の支給目的や職務内容、人材活用の仕組みによって結論が変わり得るところです。「アルバイトには賞与を支給しなくても違法ではない」と単純に捉えることなく、不合理な待遇の相違となっていないかどうかを再度吟味してください。
同一労働・同一賃金とは
「同一労働・同一賃金」は、「同じ仕事をしている以上は同じ賃金をもらう権利がある」と素朴に理解される言葉です。しかし適用が問題となる法令を見ていくと、そう単純な話ではありません。
いわゆる正規労働者(正社員)と非正規労働者(契約社員・パート・アルバイト・嘱託等)との賃金格差について、初期は労働基準法3条などを根拠とする訴訟が提起されてきました。その動きが活発化したのは、2012年の労働契約法改正で、20条に「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を定める条文が創設されたことが発端です。
これにより、無期雇用労働者と有期雇用労働者の労働条件の相違、具体的には基本給、昇給、賞与、退職金、各種手当、休暇、福利厚生などの相違が不合理でないか、裁判で争われる例が急増しました。同条を請求の根拠とした訴訟が多数提起される中、18年6月1日に最高裁で長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件の両判決が出され、その後の訴訟や実務の中で広く参照されることとなります。
実務では個別の判断が必要
両判決直後の18年6月29日には「働き方改革関連法」が成立します。これにより、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」に題名変更され、労働契約法20条が削除されたのです。
その一方、パートタイム・有期雇用労働法8条に「不合理な待遇の禁止」、9条に「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止」と題する条文が整備されました。「均衡待遇規定」「均等待遇規定」がパート・有期・派遣で統一的に整備されたことになります。さらに同年12月28日、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(平成30年厚生労働省告示430号)」が発せられました。
以上の経過から、現状の実務は①旧労働契約法20条をめぐる裁判例(特に最高裁判決)、②パートタイム・有期雇用労働法の条文(特に8条)、③告示の三つを参照し、無期雇用労働者と有期雇用労働者との待遇の相違が不合理なものとして禁止されるかどうか、個別に判断することになりますが、明確な線引きが困難な場合も多いのが実情です。
賞与の支給目的を特定する
パートタイム・有期雇用労働法8条では、「賞与」は待遇の一つとして例示され、条文上「当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」とありますので、まずは賞与の支給目的を特定します。その上で、職務の内容(業務の内容及び業務に伴う責任の程度)、配置の変更の範囲など、目的に照らして考慮要素とすべきものを勘案し、賞与の支給・不支給の相違が合理的かを検討します。
なお、告示では賞与について、業績への貢献に連動した賞与である場合のみに言及し、そうでない場合について明確な言及はありませんが、告示で示されている例示は実務上参考になるものと思われます。
(弁護士・軽部 龍太郎)
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