淡路島で唯一となる出産可能な助産院を開業 地域で子育てできる環境をつくっていく
さくら助産院 代表 藤岡 勢子(ふじおか・せいこ)
島に出産する場所の選択肢を増やしたい
私は生まれ育った淡路島に2022年、「さくら助産院」を開業しました。自然分娩(ぶんべん)での出産の介助をはじめ、妊婦健診や母乳外来、産後ケアなどを行っています。
助産師の資格を取って神戸市の病院で2年間働いた後、地元である淡路市の病院に就職しました。しかし3年後、産科医の不足により産婦人科が閉鎖することになったのです。島への移住者が増える中、島内の分娩施設は県立病院のみとなりました。島外の病院で働きながらも、島で暮らす人たちに出産する場所の選択肢を増やしたいという思いは募っていきました。娘や周囲の後押しもあり、助産院の開業を決意したのです。
淡路市の紹介により、空いていた店舗が借りられ、改築できることになりました。以前の勤め先である、閉鎖した産婦人科からは医療機器を譲渡してもらえ、かつて一緒に働いていた産科医と嘱託医契約を結べることになったのです。また、島内外の病院と連携できることになり、助産院で分娩を扱うために必要な嘱託医および連携医療機関を確保できました。改築や設備をそろえるための費用は、市からの補助金や、地元の金融機関などから融資を受けることで調達しました。クラウドファンディングも利用し、1万人以上から支援してもらい、開業を実現することができたのです。
22年5月、初めて当院で赤ちゃんが生まれました。これまでに40人以上の新しい命を迎えています。出産は一家の絆を深める大切な出来事だと思うので、家族の立ち会いを可能としています。もともと助産師を志したのは、看護師を目指して大学に通う中、実習で出産を見学して感動したことがきっかけでした。生まれてきた赤ちゃん、そして赤ちゃんを迎える家族を見ると、心が震えずにはいられません。
子育て世代を中心にコミュニティを形成
当院では地域でのコミュニティづくりにも力を入れています。開院から毎月、誰でも参加できるイベントを積極的に開催し、出産の有無にかかわらず地域の人たちが気軽に立ち寄れる場をつくってきました。24時間子どもと向き合う育児は時に孤独で、不安に駆られます。特に移住者にとって、実家が遠方で友人も身近にいないなど、頼れる人が近くにいないことは、子育てする環境として十分とはいえないでしょう。だからこそ私は、当院を地域の人たちが集まり、みんなで子育てできる場所にしたいと思っています。助産院だからこそ「初めまして」の人でも安心して声が掛けられる、ここでつながりができる。助産師が常に居るからこそ不安を相談できる、そしていつでもここに帰ってこられる。そんな場所にしたいと思うのです。
今までは近隣住民の利用が中心でしたが、今後は自宅分娩や健診により、島全体に事業を広げたいと考えています。人員の拡充など課題は多くありますが、「淡路島を、安心して子どもを生んで育てられる場所にする」という夢に向かい、これからも進み続けたいです。
会社データ
社名 : さくら助産院
所在地 : 兵庫県淡路市志筑新島6-9
電話 : 0799-62-5030
創業 : 2022年
事業概要 : 医療・福祉(分娩入院・外来(妊婦健診、母乳外来、相談外来ほか)・産後ケア入院・妊婦教室)
HP :https://sakura-midwifery-home.com/
【淡路市商工会】
※月刊石垣2024年2月号に掲載された記事です。
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