Femtech(フェムテック)=Female+Technologyを掛け合わせた造語で、女性が抱える健康問題やライフステージの課題を技術で解決するためのさまざまな製品・サービスを指す。日本では、女性の社会進出や出生率の低下が大きな課題となっており、政府のフェムテック支援も始まっている。この市場の可能性などについて日本総合研究所の田川絢子さんに話を聞くとともに、すでに参入している中小・地域企業の取り組みを紹介する。
脱下請け狙う地元から広がる「百年ショーツ」
栃木市にある小林縫製工業は「女性が美しく快適で豊かな生活のための下着をつくる」という方針の下、ガードルやショーツなどを製造する女性下着メーカーである。以前はOEMのみだったが、近年、工場直売店をオープンし、自社ブランドとして「百年ショーツ」やメディカルケア腹帯「快腹帯(かいふくたい)」などの販売を始め、「とちぎデザイン大賞部門賞」などを受賞している。
自社ブランド開発へ 闘病経験が「快腹帯」生む
栃木市にある小林縫製工業は1970年創業で、ガードルやショーツ、ブラジャーなど女性下着を製造している。同社ではベテラン従業員が熟練の技術で、繊細な下着を縫い続けている。だが、下着の国内製造は近年、安価な海外製品の影響を受けて廃業などが相次ぎ、同社によれば現在は十数社しかないという。同社では、先代社長(現会長)の頃はOEMが100%だったが、二代目で現社長の小林雄一さんは就任前から、自社ブランド商品を販売したいと考えていたそうだ。 「国産下着メーカーとして生き残っていかなければならないので、いろいろチャレンジしてきました」という小林さん。2015年には、栃木県の補助金を活用して「ピーチテック」という高級新素材を開発した。これは肌に触れる側に極細綿糸、表側にポリエステルを使用しており、薄くて伸びる上に肌に優しい。これを使って商品開発しようとしていた17年、小林さんは病気のため入院することになった。
開腹手術を受けて闘病生活を送ったことをきっかけに、小林さんはピーチテックを使い、腹部の傷跡を優しく押さえる腹帯をつくることを思い付いた。自社の下着デザイナーでもある娘の由実さんに試作を頼み、従業員の意見などを反映させて女性用も開発した。19年に販売開始したこの「快腹帯」は、医師や看護師からも臨床ニーズを聞いて開発したメディカルケア発想のアイテムとなった。
同じく19年には、ネットショップと同社事務所の隣に小さな直売所を開設し、自社商品を販売し始めた。自社ブランド商品を販売するには、パッケージやPOP、チラシなどが必要だが、デザインは全て由実さんが担っている。 「洋服などのデザインは学生時代に学びましたが、チラシなどはつくったことがなかったので、試行錯誤しました。『縫製工場直売』が分かるように工夫しています」という由実さんは、店舗での販売員でもあり、商品の企画など製造以外のほとんどを行っている。
「会長ショーツ」を見直し 自社ブランドで発売する
同社の転機となったのは、20年に行われた「栃木県チームイノベーション実践プログラム」に参加したことだった。これは栃木県が主催する中小企業向け事業で、同社は栃木商工会議所の推薦で参加した。この事業は、自社の強みと逸品を見つけ、売り上げ増を目指すものだ。
このプログラムのために社内で話し合ったところ、従業員から「私は『会長ショーツ』のファンなのよね」という声が上がった。これは現会長が社長時代から数十年間、OEMでつくっていた下着で、顧客からも「おなか周りが深くて安心感があり、動きやすくてはきやすい」と評判のものだった。小林さんは、この下着の販売は考えていなかったが、「そんなにいい商品なら売ってみよう」と販売を決めた。由実さんは、改めてその下着のはき心地を確認したり、従業員の意見を聞いたりして、ロゴやパッケージをデザインした。こうして21年、自社ブランドとして、百年たっても変わらないはきやすい形の「百年ショーツ」を発売した。
商工会議所の協力でイベント デザイン大賞部門賞も受賞
22年、同社は直売所を「下着直売店NUIKO(縫心)」としてリニューアルオープンした。同年、百年ショーツは「令和4年度とちぎデザイン大賞部門賞(日用品・繊維部門)」を受賞し、地元の新聞などで取り上げられた。同社は、商工会議所の後押しでイベントなどに出店したり、県内の百貨店でポップアップストアを開催したりしている。 「まずは、栃木の下着として応援してもらうことが必要。地元から広げていきたいです」と語る小林さん。最近では、タブレット端末とスマホを使った無人販売機を開発し、商工会議所の協力で、地元の温泉やゴルフ場などに設置している。
また、同社は県内産業の振興や持続的発展に貢献しているとして「令和5年度キラリと光るとちぎの企業表彰」も受賞した。直売店の販売員でもある由実さんは、接客しながら下着に対する要望を聞き、顧客の声を生かして自社ブランド商品の開発を続けている。百年ショーツのサニタリー用や、経血や尿漏れを吸水するガードスパッツなど、フェムテックを意識した商品開発も行っている。今後については「下着の縫い子は職人と同じ。伝統工芸のような価値を伝えていきたいです」と言う。小林さんも「国産下着の縫製を残していきたい。そのために利益を生み出せるよう、自社商品のブランド化を進めたい」としている。
会社データ
社 名 : 株式会社小林縫製工業(こばやしほうせいこうぎょう)
所在地 : 栃木県栃木市川原田町268 番地
電 話 : 0282-24-0018
HP : https://kbhs.co.jp
代表者 : 小林 雄一 代表取締役
従業員 : 40人
【栃木商工会議所】
※月刊石垣2024年4月号に掲載された記事です。
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