「OJT(オンザジョブトレーニング)はもはや死語だ」と全国展開する著名なメディア企業の幹部は肩を落とした。日常業務をこなしながら仕事を学ぶOJTはその業界の伝統だった。ところが、販売不振に伴いスタッフを大幅に削減した結果、新人にノウハウを教える中堅社員がいなくなったというのだ。一方で、伝統的な事業を維持するため、少数でも一定の要員を確保しなくてはならず、対応に苦しむ地域の事業所が増え続けている▼
先進的な経営者であれば「OJTではなく、マニュアルをつくってはどうか」「その伝統的事業は維持する必要があるのか」といった疑問を感じるだろう。この幹部によれば、初対面の人に面談を求めることが多い業務とあって、画一的なマニュアルの作成は極めて難しい。その事業は会社の顔と言ってもよく、撤退は考えられない▼
バブル崩壊後、多くの業種で企業の合併や統合が進んだ。その過程で競争力が落ちた部門をなくし、得意分野へ投資を集中させる事例が相次いだ。大手精密メーカーが主力事業の陳腐化を背景に医療関連企業に業態転換したのは有名な話だ▼
自社の伝統業務に固執するあまり、会社全体の経営を危うくしている企業は決して珍しくはない。100年先とは言わないが、5年、10年先の日本の姿を思い描き、自社のサービスや商品を受け入れる市場規模がどのくらいあるかを見通して、場合によっては厳しい判断をすることが経営者に求められる。1社単独でなく協業ならば事業を継続できる可能性もある。さらにマニュアル教育で可能なサービスで結果を残せるかどうか試していくことも必要だろう。先の幹部は「トップの決断次第だ」と話している
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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