Q パートやアルバイトなどの短時間労働者が、社会保険適用に関する「年収の壁」を意識することなく働けるよう、政府が「年収の壁・支援強化パッケージ」を決定したと聞きました。概要を教えてください。
A 社会保険料の負担などにより手取り収入が減少してしまうことを防ぐため、働き過ぎないよう調整している短時間労働者の人が多くいます。人手不足への対応が急務となる中、短時間労働者が、いわゆる「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するための対応策として、「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されました。「106万円の壁」「130万円の壁」を超えて働いても手取りが減少しないようにする対策などが講じられています。
「年収の壁」とは
社会保険上の被扶養者と認定され社会保険料を負担していない短時間労働者は、年収見込みが一定額を超えると本人が被保険者となり、社会保険料を負担することになります。現行の制度では、社会保険料の負担が増えると手取り収入が減少することとなります。これを防ぐため、年収を抑えようと意識する金額のボーダーラインが、いわゆる「年収の壁」です。
「年収の壁」のために、手取り収入を減らさないよう就業時間を調整するなど、働き控えする短時間労働者は少なくありませんが、これは本人の所得向上を阻むだけでなく、企業の人手不足を加速する原因の一つともなっています。この問題に対応するため、2023年9月、「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されました。
「106万円の壁」への対策
短時間労働者の社会保険適用拡大の対象である事業所であれば、賃金月額8万8000円以上などの要件を満たす場合に、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の被保険者になります(いわゆる「106万円の壁」)。
106万円の壁への対策として、社会保険の適用がなかった短時間労働者が新たに被保険者となった場合、事業主は、当該労働者に「社会保険適用促進手当」を支給することができます。対象となるのは標準報酬月額が10万4000円以下の被保険者です。この手当の金額は、社会保険適用による被保険者本人負担分の保険料相当額が上限で、最大2年間は、標準報酬月額・標準賞与額の算定に含めない取り扱いがなされます。
つまり、社会保険適用促進手当分については、事業主・労働者の双方が社会保険料を負担しなくてもよいということになり、「106万の壁」を超えても社会保険料負担による手取り減少は発生しません。
また、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)が新設されました。社会保険適用促進手当の支給などにより新たに社会保険が適用された労働者の収入を増加させる取り組みを実施した事業主には、助成金(1労働者当たり最大50万円)が支給されます。これは、23年10月1日から26年3月31日までの時限措置です。
「130万円の壁」への対策
社会保険が適用される全ての事業所において、年収が原則130万円以上であれば被保険者になります(いわゆる「130万円の壁」)。
被扶養者の収入が、繁忙期に労働時間を延ばすなど一時的な増加により年収見込み130万円以上になる場合、人手不足による労働時間延長などに伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を、通常の提出書類と併せて保険者に提出することで、各保険者の判断により引き続き被扶養者として認定されるようになりました。ただし、あくまでも一時的な収入増による場合の取り扱いであり、事業主の証明を用いることができるのは、同一被保険者について原則として連続2回までとなっています。被保険者の転職に伴い保険者が変更になった場合には、新たに加入した保険者で行う収入確認を1回目として問題ありません。
これらの対策は、年金制度見直しまでの時限措置です。次期年金制度の改正に向けた議論が進んでいるため、動向に注意が必要です。
(特定社会保険労務士・桑木 しのぶ)
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