Z世代(1990年代後半~2010年に生まれた世代)をターゲットにするマーケティングに新しい潮流が生まれている。そのような中、注目されているのが「エモ消費」だ。「エモい」をテーマに商品やサービスを展開することで、情報収集力や発信力が高く、未来の消費主力層でもあるZ世代を顧客に引き込む戦略は、将来的な利益につながる可能性が高い。そこで今回、「Z世代の企画屋」としてさまざまなクライアントのプロモーションを中心とする仕事をこなし、「エモ消費」という本の著者でもある今瀧健登さんに、企業が新たなマーケティングに取り組む上でのポイントを聞いた。
今瀧 健登(いまたき・けんと)
僕と私と CEO、一般社団法人Z世代代表
近年のヒット商品の裏には「エモ」がある
―「エモ消費」とはどういう消費のことをいいますか。
今瀧健登さん(以下、今瀧) 若者はよく「エモい」という言葉を使います。うれしい、楽しい、分かる(共感)などの感情(エモーション)や、何とも言い表せないという意味の「えも言われぬ」などから生まれた言葉ですが、この「エモ」を得ることを目的とした消費行動をエモ消費と呼んでいます。
―人の共感を呼ぶエモは、どのように生まれるのでしょうか。
今瀧 エモは、経験、ハッピー、コミュニケーションの三つの要素で構成されると考えます。具体的には、自分が経験したことかどうか、ハッピーな気持ちになること、会話や言葉を通じて人に伝えたいと思うことです。この三つの掛け算によってハッピーな共感が生まれ、それを得ることがモノやサービスを買う理由になります。
―今はエモがないと買ってもらいにくいということですか。
今瀧 消費の形は時代とともに変わってきました。形あるモノを手に入れる「モノ消費」、商品を通じて体験も手に入れる「コト消費」、今しかできない体験を買う「トキ消費」と変遷して、2020年以降は商品を通じて世の中に貢献できる「イミ消費」がクローズアップされました。そしてこれからは多くの人の購買基準に「エモ」が含まれるようになると考えています。
―今瀧さんはエモに基づいたマーケティングを数多く手掛けてこられましたが、その具体例を教えてください。
今瀧 例えば、サントリーから発売された「BAR Pomum(バーポームム)」という果実のお酒があります。特にZ世代にアピールしたくて、販売に合わせて“エモい宅飲み”シーンを表現したTikTokショートドラマを配信しました。同時にユーザーから宅飲みエピソードを募集したのですが、多くの反響がありました。
―あまりお酒を飲まないといわれる若い世代に刺さりそうな企画ですね。ほかにもありますか。
今瀧 マッチングアプリを運営するタップルとつくったTikTokアカウント「幼馴染と共同生活中(おさ活)」もそうです。幼馴染と共同生活をしているシチュエーションのショート動画で、恋愛初期のあのもどかしさ、キュンとする気持ちを味わってもらうことを意識していて、開設1年でフォロワー数約35万人、累計再生数2億回超というヒットコンテンツになりました。
―これらのヒットの裏にはエモがあるんですね。
今瀧 そうですね。個人が商品を買ったらそれでおしまいではなく、エモがあることで友達に教えたくなったり、SNSで発信したりして、人から人へ広がっていく。この方法でやっていかないと、むしろ今後はヒット商品が生まれにくいのではないかと思います。
Z世代の高い拡散力が商品やサービスをバズらせる
―今瀧さん自身もZ世代ですが、その特徴を教えてください。
今瀧 一番はSNSネイティブであることです。生まれたときからX(旧ツイッター)やInstagramなどが普及していて、人とのコミュニケーションや情報収集に使うことが当たり前の環境で育っています。また、Z世代は考え方や好みがバラバラで、“くくれない”ことも特徴といえます。
―Z世代に注目する理由は何でしょうか。
今瀧 まずは拡散力です。SNSの普及によって、誰でも世界に向けて情報発信でき、それが大きく拡散されることも珍しくありません。いわゆる「バズ」ですが、マーケティングにおいて商品やサービスをバズらせることができれば、何万、何十万、何百万の人に知ってもらうことができます。そのバズをもたらしてくれるのがSNSネイティブであるZ世代です。もう一つは、市場が伸びていくこと。現時点で日本のZ世代の市場規模は小さいですが、10年後、20年後はビジネスの中心世代となり、また長期にわたって消費を続けてくれます。「LTV(顧客生涯価値)」が高いので、企業は今のうちからアプローチすれば、生涯を通してお客さまになってもらうことができます。
―Z世代は将来有望な市場であり、また自分が気に入ったものは積極的に発信してくれるということですね。
今瀧 その通りです。以前、花王の「ヘルシア緑茶」のプロモーションを担当したときの例を挙げると、内臓脂肪の減少を売りにする商品なのでメインターゲットは30~40代ですが、あえてZ世代にアプローチしました。思った通りSNSでバズって、結果的に上の世代にも広がっていきました。
利害関係のない人の声が消費意欲を高める
―Z世代向けにマーケティングするときのポイントを教えてください。
今瀧 一つは必ずSNSを使うこと。商品にせよイベントにせよ、SNSと絡めることがマストです。二つ目は、Z世代の声を入れること。上の世代が考えた企画を見ると、「これはZ世代が絡んでいない」ことがすぐに分かります。Z世代に訴求したいなら、Z世代の声を聞いたり巻き込んだりして行うことが重要です。
―SNSを使う上で何かコツはありますか。
今瀧 先ほどZ世代は“くくれない”と言いましたが、よく使うSNSもバラバラです。そのため、ただSNS上で発信すれば届くとは限りません。そこでエモによって人と人とのコミュニケーションを促し、SNSを見た人がほかの人に自然発生的に宣伝していくチャネルをつくっていくことが大切です。
―いかにZ世代の心をつかむかが鍵ですね。
今瀧 その際押さえておきたいのは、Z世代は広告が嫌いだということです。従来の広告はお金をかけた質の高いものがたくさんありましたが、SNSの広告は数百円から簡単に出せるので、質の悪いものも多い。しかも、見ているSNSに関連のない広告が勝手に流れてくるので、単にウザい対象になっています。一つ間違えると逆効果になる恐れがあります。
―多くの人に知ってもらうために、商品やサービスの良いところをアピールしたいところですが……。
今瀧 Z世代が「これいいな」「買いたい」と思うポイントは、「UGC(消費者によって制作されるコンテンツ)」です。CMで「おいしいよ」と言われるより、家族や友人から「これおいしいよ」と言われた方が買いたくなるでしょう?ユーザーが自分の意思で商品の紹介や評価を発信したくなり、それが拡散する仕組みを考えることが不可欠です。
―先ほど今瀧さんが関わったヒット商品の事例はどちらもTikTokを活用されていましたが、Z世代にはTikTokが有効なのでしょうか。
今瀧 TikTokは潜在顧客に打つ上で、ほかのSNSと比べて圧倒的に有利です。自分がフォローしていなくても、不特定多数の人に見られている投稿が「おすすめ」に表示されるので、人の目に触れる機会が多い。それに同じ動画でもYouTubeよりTikTokの方が短くて印象に残るので、自然発生的に拡散されやすいというメリットがあります。エモマーケティングにはTikTokの活用を検討するといいでしょう。
自分や社員をエモくすることから始めよう
―中小企業がエモマーケティングに取り組むには、どんなことから始めたらいいでしょうか。
今瀧 まず、なぜSNSで発信するのか、目的や意図を明確にすることです。世間でSNSが活用されているからといった理由では、やがて投稿するネタが尽きてしまいます。また、Z世代からすると、InstagramとXではテレビと新聞くらい違いますし、ユーザー層もInstagramは女性、Xは男性が多い傾向があるので、売りたい商品やサービスに合わせてSNSを使い分けることも必要です。
―エモマーケティングを展開する上での注意点があれば教えてください。
今瀧 マーケティングチームの中にZ世代を入れることです。Z世代は多様性を重視するので、ターゲット層のことが分からないまま商品をつくったり売ったりするのはかなり難しいと思います。社員の中にZ世代がいなければ、社員のZ世代の子どもに聞くのも良い方法です。
―最後に、Z世代向けに新しい展開を考えている中小企業経営者にひと言お願いします。
今瀧 「エモい」の感覚は人それぞれですが、エモはハッピーな共感のことなので、どうしたら身近な人が喜ぶだろうかと考えると良いと思います。自分も社員もユーザーもエモくする、そういうマーケティングを心掛けるとエモ消費につながるのではないでしょうか。
※月刊石垣2024年5月号に掲載された記事です。
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